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2009年02月14日
ドキュメンタリー映画『エンロン』
低気圧通過による風雨の後、急に春真っ盛りの気温になり(23度!)、気持ちが悪いくらいの今日、近くのホールで行なわれた自主映画で、この作品を見てきました。
「エンロン」とは、アメリカで急成長を遂げた巨大企業、それが不正を暴くある記事により一転株価の大暴落、その後に次々とその正体は明るみに出て、その記事から46日後には破綻に追い込まれた、いわゆる「エンロン・スキャンダル」と言われているそうであるが、私は名前くらいは聞いたことがあるような、という感じでほとんど何も知らなかったのである。
ドキュメンタリーであるが、まさにテレビゲームの世界のようだ。だがこれは現実の、巨大な多国籍企業が(実際はそれを動かす数名のボスたち)、実業者だけでなく政治家や銀行公認会計士や弁護士、もちろん現場で働く労働者を巻き込んで、「儲かる」という金銭感覚(すなわち欲望)による、世界を舞台にしたゲームに思えた。
1985年、天然ガスのパイプライン会社として設立されたこの会社は、テキサス州のヒューストンに本社をおいて次第に世界最大のエネルギー卸売り会社となっていく。(それゆえブッシュ元大統領父子とも、家族ぐるみの付き合いで、政治家も絡む)規制緩和によって業務拡大、僅か15年間で全米第7位の巨大企業になり、海外進出も41カ国。それにつれて業種も卸しだけでなくオンライン・サービスやブロードバンド業、エネルギーサービスなど拡大。
細かなカラクリは、私のようなものには分らないが、規制緩和、自由競争、市場原理などというものは、大きければ大きいほど更に大きくなり(大量生産で価格が安く出来る。儲けが出る)、小さいものは負けて潰れるか吸収される。次第に少数のものが巨大になっていくものなのだということが分った。
そして巨大になったものは、常にどんどん大きくなっていかねばならない宿命を持つ。すなわち停滞する事ができないのである。なぜなら大きくなるためには先を見越した設備投資をしているわけで、立ち止まると、先を見越した設備投資の分は赤字になる。たとえばインドに巨額の設備投資をして発電所(?)のような物を作る計画。しかしその電力を買えるような会社はインドにはなく、その計画は頓挫して、その現場はいまは廃墟と化しているとか・・・。
結局、エンロンの現実は赤字だらけだったようである。しかし幹部は大儲けしていて(潰れる前に何億と儲けて退職した幹部はいま南部で大地主になっている)、ボーナスも多額で、従業員たちは誇りを持って働いていた。なぜ業績は上がらないでも、現実に儲けがなくても、給料が払え、幹部たちは何億と収入が得られるのか?
それは株式市場という「場」があるからである。エンロンの株は、どんどん上昇したのだそうだ。急成長するエンロンはどこまでも成長するという「エンロン神話」が生まれ、株はどんどん買われ、値段は高くなる。儲けは、その利鞘から出てくる。バブル神話と同じことだ。実際の経営状態については、最後まで明らかにされなかったのである。それを監査する組織も、それを見逃していた、というよりそれによって懐を肥やしていたので、眼をつぶっていたのである。政治家も同じことだ。
タイタニックの船長である事を、ボスたちは感じていて、いつそれが来るかと思っていたようで、社長のケン・レイの顔が次第に疲れ衰えていくのからも感じられた。それでも投げ出すわけには行かないのは、それを知りながら、なおかれらを存続させることで儲かる人がいたからである。またその企業の未来を信じ働く従業員がいたからである。
しかし株式の大暴落をきっかけとして、2ヶ月も経たないうちに潰れ、後は負債総額2兆円、失業者は2万人、従業員(その年金資産も)をはじめエンロンに投資した巨額の資産は失われた。
エンロンの宣伝コピー(コマーシャルの最後に登場したという)は,「Ask Why」 (常に疑問を)というのは、皮肉である。責任者たちは裁判にかけられたが、最高責任者のケン・レイは、有罪判決を受けた一ヵ月後に心臓発作で死亡した。
日本でもライブドアをはじめ、似たようなことが生じている。幻想とそれに踊らされる群集心理、人間の欲望がそれを生み出すのであろう。映画の最初に映し出された高層ビルの一群は、東京のそれにそっくりで、株式市場が主導する経済というものが世界を動かしていることの実態に慄然とした。
投稿者 kinu : 2009年02月14日 16:56
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