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2009年09月02日
『源氏物語』宇治十帖 その3
宇治の八宮は、失意と不遇の中で二人の姫君を慈しみ育てている。自らは出家の意志が強く、山寺へ参篭などして準備をしているものの姫君たちのことが心配で、果たせないでいる。そこに薫がやってくる。
仏教についての教えを請うはずの薫だったが、姫君たちを垣間見ると(これら物語は多くここから始まる)我もなく心が動いてしまったのである。これまでも、源氏(表向きは)と皇女の息子であり、容貌容姿からも引く手あまたであったわけで、また現実にも今上天皇と明石中宮の娘、二宮についても、仄めかされているにもかかわらずその気になれない、生まれつきどこか非世俗的なところのある青年(20歳)だったのに。
八宮と薫は、宮が師とする僧侶も加え仏教を語る良き仲間として(当時仏教は男性の学問であり思想であり、教養でもあった)仲睦まじくなって行き、消息を交し合うようになって早くも3年が経ってしまう。
そしてある秋の終わりごろ(舞台装置として良い季節の月夜である)、八宮が山寺に参篭中に薫は宇治を訪れる。そこに月を愛でて琵琶と筝(琴)を奏でる姉妹の姿をかなり露わに見てしまう。好き好きしい心などではないと、宿直の男に案内させてのことであるが…。早速消息(歌を贈る)を交わそうとするが、田舎びた侍女たちはすぐ応対することができない。そしてそこに昔からいた老いた侍女は応対することになり、彼女が薫の実の父親の柏木のことをよく知っており、やっと薫はこれまでもやもやしていた疑念が晴らされることになる。
そんな深い縁もあり、今にも荒れ果ててしまいそうな宇治の里の侘び住みの姉の大君の方に心を奪われる。
その後、薫は何度か宇治を訪ね、それにより宮中の雰囲気や華やぎももたらされ、八宮も薫を見込んで姫たちのことを頼む気持になり、いよいよ出家の念願が果たせると思うようになる。
ところが大君は、結婚する気持はさらさらないのである。出家したいと思うばかり。父君から後見を頼まれていると言って迫っても、自分はそういう気持はなく、ただ中君だけが心配だと、そればかりを言うのだが薫は大君に執着があるのである。
そこへ、華やかで艶っぽい、自分の感情に積極的な匂宮が登場する。彼には隠していたのだがそういうわけには行かず、初瀬詣での中宿りとして近くの山荘に泊ったり、管弦の連中を乗せての舟遊びをしたりしてアッピールする。
そしてとうとう八宮は、薫に姫たちを託し遺言を残し他界する。
葬送も追善供養も全て薫が行なうのである。源氏の誠実でまめな面を、全て引き受けているような薫はあくまでも面倒見が良い。雪が降り、大変な時でも訪れて世話を焼く。
それでも大君は、薫を受け入れようとはしない。一方、匂宮は背も高く今風な中君にぞっこんである。この方も、実は夕霧の娘、六君との結婚話が正式に持ち上がっている。しかし匂宮は気が進まない。中君こそと思っており、それを正式に中宮にでもして自分が世話をしようと、その時は思っているのである。
それぞれに大君と中君を思ってであるからちょうどいい。二人は揃って、喪中の姫君たちを訪ねる。しかし姉妹は寝所を別にしていないのである。妹は、ただただ思慮深く賢い姉を頼りとしていて、姉も妹だけを大切にしているので離れることがない。
薫が言葉を尽くし、大君を説得するが承知しない。せめて近くにでもと(ストーカーのようになってしまっているが)、言い寄り、侍女たちも(この女房たちの存在は一種の「世間」の役割を果たしている)あまりに気の毒だ、などと言って部屋の中に導くのであり、とうとう部屋に入ってしまうのであるが、それでも大君は、するりと衣を脱ぎ捨てて、部屋の外に出てしまうのである。残るのは身を伏せた中君。そこに一緒にいた匂宮が入り込み、中君と契ってしまう。
薫が丹念に作り上げ、秘しつづけた世界の良い部分を、トンビが油揚げをさらうようにつまんでいった感がある。
思がけぬ展開に、薫は臍をかみ、また姉妹は悲嘆にくれる。
しかし世間的に言えば別に悪いことではない。実際匂宮は、中君に魅かれていて、結婚が成立したと言うだけだ。しかも匂宮は、将来は帝になるであろう春宮なのである。薫はといえば、下心として中君を自分に任せようとしていた大君を此方に振り向かせようとしてのことであったのに、自分の方は成就しなかったのに、匂だけがいち早く成功したのであった。そこで薫はあくまでも八宮に託された後見役に徹しようとするのである。中君が、幸福になることを願うだけである、それは大君の願いでもあることだから。
このように粗筋を書き出すことに終りましたがご容赦ください。
先ずこういう成り行きを書かねば、考えが先に進まないので。では、又長くなりましたので、次にします。
投稿者 kinu : 2009年09月02日 15:42