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2012年06月01日
「さくらクレパス」
夕焼け空を描きながら「さくらクレパス」のことを思い出した。戦後間もない頃、幼児の私に初めて与えられた「さくらクレパス」12色のことである。新しい箱を開け、きれいに並んだ、まっさらなクレパスに出会う──あの幸福感はたとえようもない。日本中に「もの」がなかった時代で、クレパスは貴重なものだった。
12色というのは、1. 白、2. 黄、3. 黄緑、4. 緑、5. 茶色、6. 水色、7. 青、8. もも色、9. 赤、10. 肌色、11. 灰色、12. 黒、である。幼児が初めて出会う色としては、少し原色が多すぎるようにも思うが、この組み合わせを選んだのには、それなりの理由があるのだろう。幼児期、私はこれで花や動物、人や家を描いたはずだが、覚えていない。
私の記憶にはっきりと残っているのは、小学校1年生の時買ってもらった「さくらクレパス」24色で、いきなり増えた12色は、1. レモン色、2. みかん色、3. だいだい、4. 黄土色、5. 焦茶、6. 朱色、7. ふじ色、8. 紫、9. 深緑、10. ぐんじょう色、11. あいいろ、12. くちば色、である。これは、絵の好きな1年生には、世界が何倍にも広がるような事件だった。紫色と黄土色、、、焦茶とふじ色の組み合わせもいいなあ、、、ぐんじょう色とくちば色、、、なんて大人!クレパスは私の格好の遊び相手になった。
もったいないので大事にしつつも、使うと減る。紙を剥いて、さらに使い込んで、1cm 未満になり、最後は指先で練り潰すようにしてなくなる。しかし、当時、街の文房具店にも、学校の購買部にも、バラ売りはまだ基本の12色だけで、「くちば色」なんてなかった。
私は何とか残りのクレパスで「くちば色」を作ろうとした。黄緑に少し焦茶を混ぜてみる。濃すぎるので白を加える。そのうちに、これだよ!と作り出せた時はうれしかった。おまけに、少し黄色を加え過ぎたり、少し緑を加え過ぎたりすると、様々な「くちば色のヴァリエーション」が出来て、集めるときれいだった。
それ以来、私にとって色を混ぜることは日常的な習慣になった。私の爪は、入り込んだクレパスのせいで、いつも汚かったし、ブラウスもスカートもあちこち汚れていたが、気にならなかった。三原色と白があれば、全ての色が再現できることを知って、充分満足だった。
その時の体験があるからだろう。夕焼け空に様々な色を塗っているだけで、子供の頃の自分がもどってくる。