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2005年05月29日

そして 一匹も


そして 一匹も



クリスマスの日に
その島が発見されたとき
島はジネズミたちの天下だった

だがそれも
《クリスマス島》に
ヒトが住みつくまでのこと…



いまごろ
クリスマスジネズミたちは
歯ぎしりしていることだろう
「クリスマスってやつは不吉だよ」と…

かっては
天国だったあの島を
もう一つの天国から見下ろして




クリスマスジネズミ:1643年のクリスマスの日に発見された
クリスマス島に、その後200年以上にわたって、はびこっていた
トガリネズミの仲間。1900年に人が移り住んで、8年後にはもう
一匹もいなくなったという。その理由はいまも不明。

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2005年05月25日

プレイバック


プレイバック



空の果てには
永遠に回転するテープがあって
この世のどんな物音も
いっさいがっさい録られているとか…

(蛾の羽音も… 星の爆発も?)
だったら 私は 生き残ろう
永遠よりも ちょっと後まで

そして宇宙のテープを巻き戻そう
ひとり 静かに!

グアダルーペの 島の空へ
ひときわ高く響いたという
カラカラたちの最後の声…
あのタカたちの 命のこだまに
せめて この耳で触れるため




グアダルーペカラカラ:グアダルーペ島に住んでいたタカ。小動物や虫を餌
としていたが、死んだヤギの肉も好んだ。そのためヤギ殺しの犯人にされ、
1900年までに銃や毒薬で一掃された。大声の騒がしい鳥だったという。

投稿者 ruri : 11:39 | コメント (1) | トラックバック

2005年05月21日

オーオーの空


オーオーの空



ハワイオーオーたちが
この世に残したもの…
それはうつくしいケープ?
それとも魂のぬけがら?

森を 花を 蜜をなくし
その黄と黒の羽毛をなくし
一枚のケープに織られ
ヒトに着られ 商われ…



つばさを失ったものたちが
どこかの星にたどりつこうと
今このときも
けんめいに はばたいている…
羽音のやまない
この私たちの空




ハワイオーオー:今世紀ハワイで絶滅した鳥。流行のケープ用に乱獲
され、羽毛は土産品となり、その棲む森も開発されて滅びた。
ケープの一枚が1万8千ポンドで売られたという。

投稿者 ruri : 22:09 | コメント (1) | トラックバック

2005年05月20日

クアッガの星


クアッガの星



100年先の ある夏の日にも
だれか憶い出すかしら?

クーアッ クーアッと いななきながら
地平線を 雲母のようにあゆんでる
クアッガの まぶしい群れのことじゃなく

二頭立ての馬車を曳いて
ハイドパークを駆け抜ける
お利口さんの クアッガたちのことじゃなく

100年前の ある夏の日に
檻の中から ひとりさびしく旅立った
しんがりの おばあさんクアッガのことでもなく

しましま頭巾の クアッガたちをのせ
銀河系を回っていた 草原の星
太古からきた たった一つの星のことを




クアッガ:前半分だけ縞模様のウマ属の動物。狩りたてられて、
19世紀に絶滅した。その名前はかん高いなきごえからきている。

投稿者 ruri : 21:47 | コメント (1) | トラックバック

2005年05月19日

ステラーカイギュウへ


ステラーカイギュウへ



かつて北極海に遊んだ
草食の人魚たちよ

その消息が絶えて
二世紀は とっくにたったけど…
ゆうべ 夢の深い水底で
海草を食んでいた あの後姿は
たしか君たちじゃなかった?

(もし あれが正夢ならば!)
君たちは 海の底へと 銛を逃れ
ながーい ながーい 夕餉のときを
のんびり 楽しんでいるんだね

ごわごわのひげ
しわだらけの皮膚をそのままに
「もう人魚のふりなんてまっぴらさ」って




ステラーカイギュウ:1741年、博物学者ステラーによってベーリング海で
発見されたジュゴンの仲間。10メートルほどにもなるが、おとなしい海牛で、
食料となり、絶滅したという。1768年に最後の1頭が殺された記録がある。

投稿者 ruri : 22:08 | コメント (1) | トラックバック

2005年05月17日

青レイヨウ


青レイヨウ

青レイヨウが
まだ地上にいた頃のこと…

アフリカの子どもたちは
夢の曲がり角なんかで
よくかれらと出くわして
その青みがかったビロードの毛並みを
そっと撫でてみたにちがいない

でも今は
子どもたちもそんな夢は見ない
記憶のなかに ぼんやり干された
灰色の毛皮に
おとなたちが ときどき
風を当てているだけだ



  青レイヨウ:青みがかった灰色の毛をもつウシ科の動物。死ぬとその毛並み
は灰色に変わった。美しい上、食用にもなり、17世紀末からのオランダ移民
の銃により、アフリカの哺乳類として最初に絶滅した。

投稿者 ruri : 12:34 | コメント (1) | トラックバック

2005年05月13日

悪い夢


悪い夢

オオウミガラス50羽が
わたしを囲んでこういった

きいてくれ (きいてくれ)
ぼくらの 悲しいおはなしを

なぜぼくら (なぜぼくら)
北の島から さらわれて

なぜぼくら (なぜぼくら)
死んでも こうして立ってるの?

50羽の剥製たちの 眼のおくで
それぞれの海が逆巻いて

わたし…塩辛い夢のまんなかに
150年 立ったまま



オオウミガラス:水中は自由に泳ぐことができたが、飛べない鳥だった。
はじめはこの鳥のことをペンギンと呼んだ。
有史以前からの何世紀にも及ぶ殺りくの末、
辛うじて孤島に生き残った50羽も標本用に狩り尽くされて、
150年前に絶滅した。

投稿者 ruri : 11:37 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月09日

二羽


二羽

ホオダレムクドリの夫婦
今日も おそろいで 食事の支度

夫が自前のノミで コツ コツ コツ
たくみに 幹に穴をあける
妻が自前のピンセットで
すばやく 虫を引っぱり出す
さあ 楽しい食事の始まりだ…

鋭いクチバシと 器用なクチバシ
ふたりで1対の ナイフとフォーク
だから孤食なんてとても無理
毎日 仲良く食べようね
と、共白髪まで 暮らしたのに!

ああ、もし森が消えてなかったら
ふたりのつつましい食卓が
いつまでも そこにあったなら…



(ホオダレムクドリ:ニュージーランドの森にいた。
オスが短いクチバシで木に穴をあけ、メスが長い曲がったクチバシで
好物の地虫をつまみ出すチームワークで餌を取った。
森林が切り開かれ、1907年頃に姿を消した)

投稿者 ruri : 11:44 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月05日

オーロックスの頁


オーロックスの頁

この地上が 深い森に覆われ
その中を オーロックスの群れが
移動する丘のように 駆けていたころ
世界はやっと 神話の始まりだったのかしら

貴族たちが 巨大なその角のジョッキに
夜ごと 泡立つ酒を満たし
ハンターたちが 密猟を楽しんでいたころ
世界はまだ 神話のつづきだったのかしら

やがて 森は失せ
あの不敵な野牛たちは滅び去った
うつろな盃と 苦い酔いを遺して
破りとられた オーロックスの長いページよ
世界は それ以来 落丁のまま…だ



(オーロックスは長い角をもつ、大きな野牛。飼い牛の祖先。
ユニコーン伝説のもとになり、旧約聖書にも登場する。
  角はジョッキとして珍重され、その肉は食べられた。
1627年に最後の1頭が死んだ。)
 

投稿者 ruri : 17:55 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月03日

バライロガモに


バライロガモに

ワニやトラたちの群れる
ガンジスのほとりに
バライロガモよ
君は ひっそり ひとりずまい
空一面の 夕焼けでも眺めてたのか

今は流行らない
孤独な詩人みたいに
けれど 湿原は拓かれ
君たちの魂は どこかへ去った
風のような鳴き声と
うつくしい球形をした卵と
そこに秘められた
遺伝子のながい夢といっしょに

…そうして
町の市場にならんだ君たちの肉は
どんな味がしたのだろう
バラ色の夢が
飛び去ったあとで



(バライロガモはインドの湿原に、四月の繁殖期以外常に一羽で
 棲んでいた、頭部がバラ色の静かな美しい鳥。湿原が開墾され、
 今世紀前半に絶滅した。)

投稿者 ruri : 16:25 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月01日

はがきの詩画集から THE ONEーWAY TICKET 


THE ONE-WAY TICKET(片道切符)

遊星の上のレストランでは
鳥料理が流行っています
<滅びた生きもののお味はいかが?>
つかのまの雨の晴れ間に
虹を渡って
タイムトリップした人びとが
傘のしずくを切りながら
ドードー鳥をほうばっています

空の奥ではゴロゴロと放電がつづき
橋のたもとはうすれています……が
だあれも席を離れません
「次のお皿はなんだろう?」



    註( ドードーとはうすのろの意味。巨大化した鳩の種族で、飛べない鳥。
16世紀に発見されてから100年あまりで絶滅した)

「ドードーを知っていますか(忘れられた動物たち)」という絵本がベネッセから出ています。
画はショーン・ライス,文はポール・ライスとピーター・メイル。主としてこの2〜300年の間に
人間によって絶滅へと追いやられた動物たちが紹介されています。とてもうつくしい本です。
私は「夢を見てるのはだれ?」という題のシリーズで何年か前に、イラストと共に、
はがき通信を出したことがあります。そのなかからいくつか載せていきたいと思います。
絶滅の過程を追ってみると、それは現代にそのままつながっていて、その流れの音は
いっそう大きくなっているのでは…と思いながら。

投稿者 ruri : 15:02 | コメント (2) | トラックバック