« Bitches Brew | メイン | ボルベール »
2007年12月24日
左岸
12年間休刊中だった詩誌「左岸」が復活し、このたび「続・左岸」31号が送られてきた。同人は新井啓
子さん、広岡曜子さん、山口賀代子さんの3人である。以前のもそうだったが、今号はいっそう瀟洒な装
丁で、清楚な雰囲気が心地よい。さすが女性たちの詩誌という思いで読ませていただいた。そのうちの
一篇を紹介させていただきたい。
蘚苔
山口賀代子
おさないころ
祖母につれられ わけいった深い森のなかのちいさな流れのそばで
石にしがみつくようにはえている苔をみたことがある
植物と水の匂いのする濃密な世界のなかで
まじわっていたわたしたち
五十年たち
湿度のたかい都市の一室で苔とくらしている
冬
枯れ草のようになっていたものが
春
ほんのりうすみどり色になり
夏
濃い緑になり
太陽のひざしを浴びると金色にかがやきはじめる
ただ光をとりこんでいるだけのことかもしれないのに
秋
黄金色のちいさな花〈…だろうか)がさいて
胞子がとぶ
そのしなやかなベルベット状のものをひとつまみ
実生から育てた欅の根元に移す
と しばらく
いきおいをなくし枯れたかにみえるものを
根気よく水遣りをつづけると
黄色いちいさいひらべったい塊が黄金色にかがやきはじめる
ちいさな森がそだちはじめている
都市の一隅でなにほどもなくいきる女のかたわらで
※
ちいさな森…ちいさな森…ちいさな森…。そうだ、わたしも身辺にちいさな森を育てなければ…。森では
いろんなことが起こるのだから。おさない兄妹がパンくずをこぼしながら、歩いているかもしれない。魔女
の家だって建築中かもしれない。この星の上から森はいま静かに消えつつある。せめて身辺にちいさな
森…ちいさな森…ちいさな森をつくっていこう。
投稿者 ruri : 2007年12月24日 14:28
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
https://www.a-happy.jp/blog/mt-tb.cgi/3808
コメント
大きな原始の森には、年に何回か入ります。小さな森への入り口なら、家の玄関から見えています。森はいいですね。大きな森で、緑色に染まった倒木を見ました。苔の衣がかけられていたのです。
投稿者 青リンゴ : 2007年12月25日 16:10
蘚苔類とか羊歯とか、なぜか魅力的です。苔のビロウドのようなやさしい肌ざわりを想います。大地のタオルケット!
ruri
投稿者 ruri : 2007年12月26日 10:58