« ローズマリー | メイン | 届かぬ声(斉藤 梢) »

2011年09月02日

無限軌道 飯島正治

『薇』4号を送っていただいた。飯島正治氏の追悼号だった。その中から「無限軌道」を載せたい。

           無限軌道                                                                                 

黄ばんだ畳の野原を息子の鉄道模型の

ちいさな列車が駆けている

畳に耳をつけ眼を閉じると

レールを刻む車輪の音が大きくなる


縁の川にかかる積み木の橋を渡って

列車は過去の坂を下ってゆく

すると汽笛が聞こえ

ぶどう色の客車を引いた蒸気機関車が

扇状地のりんご畑の間を

ゆっくり上がってくるのだ


枝々のりんご袋を一斉にゆすって

列車が通り過ぎる

煙のなか車窓の一つひとつに

顔が浮かんでいる

おぼろげな父親の顔や軍帽の叔父

おかっぱの少女も見える

帰ってこなかった者たちだ


彼らを乗せたまま

列車は無限軌道を走り続けている

眼をあけると

ヘッドライトをまたたかせ

あえぎながら未来の橋を渡ろうとしている


””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””

はるばるとした永劫の時間と今のこの瞬間が、一つになって見えてくる。
こんなにもありありと見える遠景。遠ざかる列車の車輪の音と、汽笛まで聞こえる。
無限につづく人々の記憶のつながり。ふいに懐かしさがよみがえる。
たとえ会ったことのない人々も私の記憶の中にいるのだと思う。

投稿者 ruri : 2011年09月02日 12:55

コメント

列車には、時空をこえることができるようなイメージがありますね。レールは、過去へ未来へ宇宙へものびているような気がして、確かに、無限軌道を思わせます。

投稿者 青りんご : 2011年09月02日 19:43

コメントしてください




保存しますか?