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2011年12月24日
「届かぬ声」は届く (折口信夫賞)
青森の佐藤真里子さんからのメールによれば、以前このブログにも載せさせていただいた
斎藤梢さんの、震災のことをうたわれた短歌集「届かぬ声」が、今回折口信夫賞を
受賞なさったそうです。波乱のうちに右往左往しつつ過ぎていく今年ですが、
「届かぬ声」は確実に、ある人々の胸に届いていたのですね。嬉しいお知らせでした。
2011年12月07日
海の記憶(井上直展)
井上直さんの個展を見にASKへ久しぶりに出かけた。すばらしい展覧会だった。
現代を生きる私たちにとっての、海、空、宇宙、大地とは…。荒涼と寂寞が支配する大地
を流れる静謐な祈りの声。
3・11以前にすでに予見していたかのような、この光景に、言葉を失う。「海の記憶 A,B」
「V字鉄塔のある風景B,C」「処理工場のある夕暮れA,B」などすべて大作。
大谷省吾氏が解説文の冒頭に立原道造の詩を載せている。
悲哀の中に 私は たたずんで
ながめている いくつもの風景が
しずかに みづからをほろぼすのを
すべてを蔽ふ大きな陽ざしのなかに
私は すでに孤独だ - 私の上に
はるかに青い空があり 雲がながれる
しかし おそらく すべての生は死だ
目のまへに 声もない この風景らは!
そして 悲哀が ときどき大きくなり
嗄れた鳥の声に つきあたる
この立原の詩が井上さんの作品と呼び合い、響きあい、世界というこの悲劇的な空間を
贖罪と敬虔な祈りで満たそうとしているようだった。
私は、ひと筆ひと筆を運びつづけた孤独な3年の時を思い、表現者として
の画家の覚悟に触れ直した気がした。井上さんほんとに、ありがとう。
この個展は17日まで京橋ASK画廊で開催中。ぜひ詩人の多くの方々にも見て
ほしいと思う。
2011年12月05日
アイリッシュダンスとイルン・パイプ
アイリッシュダンスと音楽のグループ「ラグース」のショウを見に行ってきた。
エネルギッシュで華やかな女性たちのダンスは、もちろん最大の魅力だっ
たし、ヘイリー・グリフィスの澄みきったすばらしい歌声にも心ひかれた。
だが私は独特の味をもつ民族楽器イルン・パイプの音色にもっとも心惹
かれた。まるで気持ちを吸い込まれるような気がする。
寂しくて、なつかしくて、それはこの世の岸辺からあの世の岸辺へと、
深い懐かしさを込めて呼びかける声のようでもあり、またこの世での追憶
をひたすらに語る、あの世の住人の声のようでもあった。
私からいえば、それはこの世ではついに到達できないある場所への、けれど
詩や音楽や芸術が生まれてくる、母なる無意識への、深い郷愁みたいに、
寂寥感を漂わせている。アイルランドは妖精が住む国といわれるけど、その
文化のもつ不思議な魅力から心が離れない。
帰ってきて、以前から惹かれていたケルト音楽のCDを何枚か掘り出してきて、
アイリッシュティーを飲みながら、寒い午後のひと時を過ごしている。
我ながら、ミーハー的である…。