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2010年10月27日
暗闇
暗闇 目を閉じましょう そこに暗闇はありますか いいえ暗闇はありません 今日の母親のヒステリー 徐々に削られていく 彼女の海綿状組織 目を閉じましょう そこに暗闇はありますか いいえ暗闇はありません 昨晩の止まらない父親の咳 私の未来を哀れむような 泣きそうな顔 目を閉じましょう そこに暗闇はありますか いいえ暗闇はありません 静寂を破る飼い犬の 吐き気のような嗚咽 聞こえすぎる私の耳 愛すべき家族よ 時計は午前零時指したまま 黒く壊れました もう私達は白い息継ぎを やめてみても 赦されるでしょう 目を閉じましょう そこには暗闇はありますか はい やっと在りました 安らぎの木箱の中 瞼の奥に優しい優しい 暗闇が2010年10月26日
ぬけがら
ぬけがら 蝉時雨の森で 命がけの優しさに 胸を射抜かれる 繁華街の林で 初めて出会う声に 頭を撫でられる 海辺の見知らぬ駅で いつか私の描いた絵を 見つけては暖色系の色を混ぜる デジャブのような旅を 繰り返しては 私は春夏秋冬を生きてきた 言葉に 出会いに 秋雨が降り続く 頑なな蛹は やわらかくなって 人づてに破られていく 私は 黙ったまま泣いた 透明になったぬけがらに 降り注ぐ雨は 殼をまあるくつつみこみ 私の季節を 真っ白に再生させた花の降る午後
花の降る午後
2010年10月25日
秋雨
秋雨 秋雨が森を静寂(しじま)で包むようあなたの声が耳に降る午後 秋雨の中に佇む女(ひと)がいて震える肩に悲泪石(ひるいせき)降る 悲しみが降り続くなら花園の棺に埋もれて眠れよ私 寂しさに名づけてくれとせがむ胸頬を伝う雨はいつも独り 夕映えも太陽も白く彩られ虚空にぽっかり秋雨は降る 静けさよ遠くでチャイム鳴る鐘の涙に濡れたくぐもる秋の日 泣かないで誰にもいえず口ごもる誰かの為に消えた雨音2010年10月24日
曼珠沙華
曼珠沙華 恋に名があれば楽になる病 蝕まれた紅 毒 死人花 朱に染まり朱に交わりて尚紅く褪せる真夏を焦がした火花 空の青やがて暮れゆく陽射しすら曼珠沙華には焼かれる宿命(さだめ)2010年10月23日
花陰の祈り
花陰の祈り さざ波をたてる音に芯は濡れ記憶は薄く壊れた硝子 指に蜜薫りに秘密しっぽりと造花ではない切り花を抱く あともなくさきもない今影を追い置いてけぼりの指にくちづけ 暗闇で開花する花に名をつけて優しく呼んだ地上の果ての名 君の目の中に映える僕はまだ輝く檻に閉ざされたまま 髪を撫で髪をなで上げ髪を梳くあなたが神に溶け出す祈り 暗闇が懐かしいと泣く子供子宮の中で暮らした二人2010年10月22日
花陰の人へ
花陰の人へ
2010年10月12日
花葬と葬列
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花葬 なんで生まれてきたんだろう地球の裏側聞いた質問 さよならと早く言いたいさよならとベッドの柵で囲まれた脳 小鳥たち囀り空は青く澄み平和な午後にスカッドミサイル 真実を映す鏡はギラギラと光る眼を十年前の私に送信 なにひとつ遺せないまま逝く人の 骸を飾る朱の彼岸花
2010年10月09日
オセロ
オセロ 白い顔をした介護師たち 包帯まみれのリハビリ患者 誉め言葉の裏側で 黒い噂話が翻った時 私の手にある白いペットボトルの液体は 震えて裏返りました 白内障の父は黒い老眼鏡越しに 駐車場前に群がる老人の 白いパジャマの群れを嘲笑い 黒いアスファルトの四角に置いた 自分の車を忘れてしまうのです テレビは快活なエクササイズと 美白に美脚の放映を繰返し 待合室でその意味を解せるのは 黒い革靴の速歩きと 白い戦闘服の女たちで 裏返ったのは 女たちを責める幼児虐待の ホワイトコールの黒い声でした 白いサンダルと白髪の集団に はさまれて逃げ出したのは 黒いリクルートスーツの男性 やがて黒い部屋に 白衣装が一つだけ 黒いネクタイやスーツに 囲まれて 黒が安穏の勝利の笑みを 浮かべる頃になると 白い煙がのろしのように 立ち上ぼり 私の手にあったペットボトルは すっかり 空っぽになってしまいました (詩と思想10月号選外佳作作品)2010年10月06日
籠の鳥
籠の鳥 小鳥に自由を与えた 籠の中に入れて 鳴き方を覚えさせ 餌付けをし ラム酒を少し入れた水で 毎日可愛がっていたのだけれど 小鳥に自由を与えた 小鳥はいつも 「あなたのものよ」 と さえずるけれど それは本当のことなのか 小鳥に自由を与えた 愛でるだけ 可愛がるだけでは 僕の疑惑は首をもたげる だから小鳥に自由を与えた かれこれ三日は帰ってこない 今頃小鳥は仲間をみつけて 違う喜びを知ったはず 僕の苦悩と引き替えに 小鳥は夢見心地でさえずるはず 「こんな世界があったのか」 「こんな自由があったのか」 〜自由になった小鳥はきっとかえることはないよ〜 悪魔のような囁きが頭の中でリフレインする 僕は知りたかったんだ 僕は確かめたかったんだ 小鳥はずっと僕のそばでさえずる事が 本当の幸福であるのだと 僕は小鳥が去った籠の中 「あなたのものよ」 という残声を胸に抱いたまま 籠(きみ)の中で囚われの身2010年10月05日
錯乱
錯乱