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2011年03月29日
青空から涙
青空から涙
青空を折りたたむような
終い事に追われ
広げた風呂敷も
今となってはたためない
こびり付いた友情を
優柔不断と殴り書き
サヨナラ
と 一言書いた紙飛行機
青空に向かって
飛ばしてみたら
たちまちの曇り空から
大粒の涙が降ってきて
私が慌てて折りたたんだのは
あなたからの
最後のラブレター
だったのかもしれない
ひとこと
ひとこと
私を見守ってくれた人
私を泣きながら憎んだ人よ
頑なにして繊細
潔癖で完璧主義
口下手で手も握ってくれない
多くの人に慕われても
孤独だと言い張る
リア友よりもネット友人に愛を売る
上辺だけのおべっかと愛想笑いの中
生き抜いてきた人よ
そんなあなたをずっと温もりが伝わるまで
抱きしめてあげたかったのだけど
生憎私は生まれながらにして無神経
厚顔無恥は得意技
あなたを見つめ続ければ被害妄想も関の山
歩み寄れば喋りすぎ
あなたに本当に言いたかったこと
(もう 我慢しないで泣いてもいいんだよ)
って素直に言える可愛い女になりたかったの
たったひとこと
たったそれだけ
あなたに言いたかった
私は来年空に還るかも知れないけれど
いつか思い出して欲しい
そう
例えば来年
菜の花が黄色く色づく頃にでも
あなたを愛していたことを
2011年03月28日
しみ
私たちは言葉を蹂躙する
無形の言葉を注ぎ込み
器の中にシロップを混ぜる
ベッドの上の揺すられる裸婦
握ったシーツに手汗が沁みゆく
(汝 姦淫する事なかれ)
泉に指を差し込こみ呪文を囁くと
秘密の扉は海底から開かれる
あなたが満ちる
頭が白濁する
戒めがしみこむ
(汝 姦淫する事なかれ)
蝋燭が戴冠する炎に過去のフィルムたちが
セピア色に染まってゆく
蝋はしみこむ
炎は続く
私を溶かして透明にする
声も指も涙も嘘も
絶頂の哀しみに身を浸す
(罪なき者は この女を石にて打て)
私の五臓六腑にしみこんだ炎は
一夜の夢の灰となる
私は夢の残骸を拾う
ショーツの底に溜まった苦い潮
戻れない女の性(サガ)
(我も又 罪人なり)
私たちは言葉を蹂躙する
過ちの芳香(におい)
心裏腹 体が覚えた逢瀬の
うれしみ
川
川
私の目の前に川が流れていた
多分物心ついたときからだったとおもう
十三才のとき赤く染まった私の体内(なか)から
流れる水をみた
(あの川の向こう側へいきたいな)
なぜかそう思えば想うほど その日から
両親を殺さなければいけない気がした
十八才の時父親に刃物を向けたのは
水の流れが逆流するような
同じ血を持つ二人の
悲劇性だったのかもしれない
(あの川を越えるためにこの男を切り倒さなければ)
私は歪な筏を早く作ってでも
川の向こう側の風景が見たかった
シネ という他力本願の寺にある山水
コロセ という自力本願の寺にある鉄砲水
青い呪いは逆巻く怒濤の飛沫に
父の血清は蝕まれ 視界は濁り
こめかみの動脈瘤は耳から赤い水を垂れ流し
老木は還暦の波紋の年輪を残して倒れた
川の向こう側には
生と老いの悲しみが
一掬いたまっていた
水 一救い
そのてのひらの泉に映っていたのは
ギラギラの眼 昂揚した顔で
笑いながらナイフを向けた
愛娘
あぁ 川は流れ続けるのだ
川は
川は
2011年03月23日
十六夜の月
月夜見という
貴女だけの昔の神を知っているか
冥界を支配し
夜を静寂に帰し貴女の寝顔を細く強く照らして
月光で髪を梳くあの神だ
貴女の為だけに詩(うた)い
姫と蛇を
使い分ける卑怯な
アオイケダモノ
闇の属性 あの神だ
だが
あなたは神と呼んだ男は鬼だったのだ
奴を喚ぶ声は今は闇に溶けて聞こえなくても
覚えていて
月夜には月詠みの詠と指を愛でた猫
鬼の指を透明にて涙を隠した白い猫よ
自ら鬼の名を名乗り鬼を愛した貴女が天女
月夜見はただのフクロウ化けた鬼の二つ銘だ
されど
奴は言った
信じているから手放すのだ
貴女には輝く未来があるのだと
お互いの手首の傷口の言い訳を
知らない月に知らせなくてもいい
僕たちの七年間を知らない嘘月に媚びなくていい
おいつめたのは神の名を持つ黄泉使い魔
誘ったのは鬼女の名を持つ吉祥天
もし今
貴女が来るべき未来に震えているなら
十六夜に雨 激しく
交わらない二人
胸を射抜かれて死んでみようか
噂
噂
ひとつの噂が投げ込まれ
郵便ポストが破裂した
ひとつの噂が尾鰭をつけて
遊泳する鯨を飲み込んだ
ひとつの噂はひとり歩き
お共を連れ連れ七十五日
七十五日のお祝いに
噂 ひとつ
御葬式
陰気くさい
陰気くさい
昔から猫は陰の気を好む
なぁ
いつもはそんなに懐かないくせに
俺の腹の上で寝るほど
今の俺って陰気くさい…?
メスネコめ
悔しいけど
良く
分かってんじゃん
三日月
三日月
深遠から伸ばされた手筋が
細い糸のように事切れる
声は虚ろな静寂に溶けこんで
白濁した記憶の傷口を指し示す
あなたはいった
ごらん 混じり合う僕達の傷口は
まるで透明な三日月のようだと
なぞる指先 憎く疼く
それは恋心のようだと
私は思う
ちがう枕ではもう
寝たくはないのです
私はうずくまり
傷口を開いては
空を眺めて虚空に三日月を探す
淵
淵
泥濘に足をとられて淵へ
差し伸べた手に石を握らされ
叫び声に冷飯を詰め込まれ
沈んでゆく肢体
浮かび上がる視界
夜の淵
人影はない
2011年03月07日
仇人
仇人
胸の真ん中の常夜灯
ぬばたま色に点滅
凍える閨に入り
独り
歌を歌う液晶画面から
文語体の恋人たち
雨に濡れて
衣に逢瀬の
韻を踏む
待っていたのは
恋人が差し伸べた手
振りほどいたのは
私の後ろの私
新月を忘れてしまった
嘘月
骸になった言葉を
あなたは抱いて
闇夜に御手紙
隔たれた壁の向こう側に
蠢く毒虫
奪うことでしか
あなたを
つなぎ止められない
かった
私は 仇人
赦されない
己の罪を恥じて
奈落の底へと
今日を
彷徨う
2011年03月05日
晩餐
晩餐
確か猫の縄張り争いの鳴き声か
犬の不安定な吠え声で
三人は真夜中に起こされたと思う
銘々が空き巣の心配や
戸締まりの確認をし終わると
暗闇からにょきっとでてくる
手を気にしながら
小さな電気ストーブに身を寄せ合い
そこだけをぼんやり光が照らし出した
父は蝕まれてゆく肝臓を
新鮮なレバーで食べてみたいといい
母は心臓に入れた電池を取り外して
ハツにして精をつけたいという
私はキャンバスに色をつけて
食べて生きて行く話をした
三人が各々
言葉を飲み込み
誤嚥なしに噛み砕き
耳から材料を取り込み
頭で味わっては
互いのレシピの奥義を
聴きながら笑った
もうこんな美味しい食事に
ありつけないことも悟った
朝日が昇る前に
父は闘牛士になって
極上の生レバーを手に入れたいとスペインに
母は生き肝を食べたいと
出刃包丁と刺身包丁を持って
鬼婆の弟子入りに
私は絵に描いた餅を探しに街へ出かけた
誰も帰らない家に
あの晩餐のレシピだけが
灯りをつけて
待っていた
2011年03月03日
眠り姫
苦悩の夢から誘惑するのは
ヒプノスの白い闇
一錠
征服されたあなたは
青白い顔に
動かなくなった紫の
唇から
僅かな毒の吐息を
漏らし続けて
王子様を排斥しようとする
朝日ののぼる空を
私は早々に折り畳み
寝床の周りに茨を
巡らせれば
誰も踏み込めない
領域にあなたの棺を
用意する
誰の声にも靡かぬよう
進入禁止の立て札が
褪せぬよう
白濁した沈黙の憩いの場を
守ったまま
あなたが
目指して自ら進む
黄泉の国の道すがら
もう一度
私に振り向いてくれるように
今日も明日も明後日も
桃の香の涙を流そう
夢のように
夢のように
春雨の温かさ体温の如し
掴めぬ虚空 君の姿なり
青空の寂寥を涙雨
水槽の中
金魚一匹の孤独
投げ入れられた小瓶が波紋を呼び覚まし
恋が滑り出そうとしている
まるで夢のように
忍び愛
忍び愛
踏み出せば行方も知れぬ恋の道危うき事は覚悟の上で
君想う君に捧げし詠み歌よ夜露に濡れて文字も流れて
知らずとも君 居ぬ側の淋しさよ枕を涙で濡らす徒花