2011年03月05日
晩餐
晩餐
確か猫の縄張り争いの鳴き声か
犬の不安定な吠え声で
三人は真夜中に起こされたと思う
銘々が空き巣の心配や
戸締まりの確認をし終わると
暗闇からにょきっとでてくる
手を気にしながら
小さな電気ストーブに身を寄せ合い
そこだけをぼんやり光が照らし出した
父は蝕まれてゆく肝臓を
新鮮なレバーで食べてみたいといい
母は心臓に入れた電池を取り外して
ハツにして精をつけたいという
私はキャンバスに色をつけて
食べて生きて行く話をした
三人が各々
言葉を飲み込み
誤嚥なしに噛み砕き
耳から材料を取り込み
頭で味わっては
互いのレシピの奥義を
聴きながら笑った
もうこんな美味しい食事に
ありつけないことも悟った
朝日が昇る前に
父は闘牛士になって
極上の生レバーを手に入れたいとスペインに
母は生き肝を食べたいと
出刃包丁と刺身包丁を持って
鬼婆の弟子入りに
私は絵に描いた餅を探しに街へ出かけた
誰も帰らない家に
あの晩餐のレシピだけが
灯りをつけて
待っていた
投稿者 つるぎ れい : 2011年03月05日 20:27
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