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2011年07月31日
じゃあね
捨ててしまいたい
あなたとお揃いのペアリング
忘れてしまいたい
私だけを映していた瞳
封じてしまいたい
色とりどりのラブレター
燃やしてしまいたい
あなたまみれの日々の私
送り届けたい
配達人が間違えて
隣のポストに入れた
手紙を
ひとことだけ
じゃあね
2011年07月29日
闇の告白
闇の告白
くちづけという名の枷で狂わせて
滴る雫 溢れても離れず離さず
絡まった舌 噛み切れるように愛しても
尚余りある激愛の渦に
我 狂女となりて
狂人廓(くるびとくるわ)で
あなたを待てば
吐息は罪に
忘却は彼方に
千夜一夜の夢現は
闇への餞 極彩色に
胸には花を
蒼白いか細い腕には
赤黒い注射の跡
車椅子のおじいさんは
動かなくなった足と歴史を語り
忙殺されるサラリーマンは
上司の嫌味に
絡まれ目がまわる
今日もどこかの産婦人科で
胎児がひとり
ゆっくり流れた
人の心には
いつも美しい花が咲いていると
信じたいから
涙で霞んでも
消えないコサージュを
あなたの胸に
2011年07月26日
イチゴジャム
イチゴジャム
お父さんとお母さんの間に
イチゴジャム
拾いなさい
そして捨てなさい
粗末にしてはいけないだろう
お父さんとお母さんの間に
飛び散った
赤いジャム
わたしが棄てたのは
二人の間で
泣きたかった
イチゴジャム
瓶には戻らない
イチゴジャム
産地も定かでないジャムを
メーカーのない瓶に
瓶詰めにして
わたしの手が真っ赤になり
ベタベタと未練の
てのひらを差し伸べるように
わたしに始末される
赤いジャム
わたしはその瓶を
月も星も知らない夜
桜の木の下に埋めた
狂い咲きの桜は
薄紅色に最期を彩り
散っていく
ほんの少し
イチゴジャムの
薫りを残して
螺子
螺子
寝ている時間が長くなった
父の螺子が緩んで
肝臓から穏やかに血は流れ
肝機能は停止状態
寝ている時間が長くなった
母の螺子が錆びて
筋肉の凝縮にから激痛
ペースメーカーの心音は
時折 静止
寝ている時間が長くなった
私の螺子が横に倒れて
私の首
薬物漬けの注射器の穴
いつしか沈黙
独りがため息を吐き出し
独りが饒舌に罵り
独りが上手に雲隠れする
まだ生きていたいというわけでなく
まだ死にたくないだけです
人が死にたがるのは上手に生きられないのではなく
自由に生きられないからです
あぁ 誰か螺子を元に戻してくれませんか
緩んで 泣いた顔になる父の
錆びて 動けなくなる母の手の
傾いて 口から食べ物をこぼす私の
螺子を正しい方向へ強く強く回して下さい
朝 目覚めたなら朝日に向かって
おはようございます
と 弾む声で
家族が笑顔で動けるような
回り続ける螺子を
三本だけで宜しいですから
2011年07月23日
時計
デジタルの数字が夜を呼ぶと
充電切れの私が点滅して
茜色に染み込んでは 暗く沈んでゆく
あなたの数字の一の位置に
私のI(アイ)が点りますように
精密に絡む歯車のように
ぴったり合わさった
私たちを急かす息使い
黎明ががひそやかに
射し込むと点滅する時間とあなた
タイム・オーバーな千夜一夜は物語
とれないワイシャツの皺を共有しながら
革靴とヒールの差くらいの短針と長針が
駅のホームから遠く見えた
ヒールの先にあるため息が
流れる車窓に自分の顔を映す
満員電車のポスターは
振り子のようにゆれていた
私は街で充電器をひとつ買い込み
独り部屋の時計を眺める
(タイムリミッツト)
独り部屋に秒針の声が突き刺さる
やさしい嘘をつきながら
奥様にただいま
と 挨拶するあなた
ねぇ
あなたの時間は今何時?
ケイタイ
ケイタイ
暗闇に 携帯の灯り チカチカと 目を刺す孤独 冷える指先
人恋し 携帯叩く 親指の 先から先へ あなたは消えて
教えない あなたにだけは 教えない メルアド メル友 今の顔さえ
会いたくて 無言電話は 真夜中に かけては消して かけては消して
声すらも 昔のままの 君なのに 今は遠くの マネキンの口
お揃いの ストラップをした 王冠と十字架が隔てた 貴族と愚民
携帯の灯りだけのみ あなたとの 距離を縮める 胸のともしび
充電器 熱くなるほど 君慕う 火傷をしても 寿命が消えても
過去の傷 見せるくらいの恋をして あなたは捨てた 赤い携帯
2011年07月17日
呼吸をするように
言葉を吸うように
息を吸う
舌の裏で
青と赤の脈動のバランスを
転がすように
味わいつくす
言い訳を企むように
息を吐く
罵声と後悔が
テノールで黄昏の
シンフォニーを奏でる
呼吸困難になるまで
しがみつく
絡まる
互いの視線の隙間から
見え隠れする
薄利された日常が
口内から腐臭を放つ
息を吸い
息を吐き出だす
言葉を交わすため
言葉を封じる
あなたを吸うごとに
言葉が蠢く
血流が逆巻き
子宮から
胎児の握り拳ぶんの
我慢を強いられ
密閉された口腔から
あなたの遺伝子が流れ込み
私の胎内(なか)で言葉が産声をあげる
2011年07月11日
月美
月美
だからお前はここに来た
暗い病室を飛び出して
病の茨をすり抜けて
化石になった僕の部屋で
今 白い花を咲かそうとしている
月美
おいで
お前の願いを叶えてあげる
お嫁さんにしてあげるよ
シーツはいつも冷たくないことを
暗闇にはやさしさがあることを
苛まれる悦びを
鬩ぎあう愛しさを
ほどかれない激しさを
爪の先まで 教えてあげるよ
覚めないおとぎ話を囁いてあげるから
命の芯まで 自惚れたらいい
子猫のような悲鳴をあげて
あとは波にさらわれたらいい
ごらん
海底に眠る君の体から透明な茎が
月に向かって伸びてゆくよ
月美
哀しいけれど
お前はそれを見ずに短い夏を逝く
お前が咲かせた花は
月下美人
儚さに背を向けて
薄明かりの部屋で
小さく悲鳴をあげたような花
満月
満月
変貌する月から漏れる吐息は
獣の嘶きように
二人は赤い言葉で
交尾する
出会えた手応え探す夜
あなたに溶けたまま
解読出来ない暗号を
私は一夜で孕む
満月の夜は
いつも胸が騒ぎ出す
もうひとりの
あなたが私の胎(なか)で
ゆっくり
海へ漕ぎ出すからだ
狂態
鏡から狂態晒す 私の身 辱めてよ 視線の矛先
愛してる 愛してなくても 抱けるなら 理屈はいらない それだけでいい
まだ胸に 花びらの痕も 無いままで 乳輪だけが 赤く泣く夜
首だるく 髪を散らして くねる腰 夏の夜は 女の薫り
溜め息と 吐息を吐いて 足して割る 方程式は 答えを持たず
独り寝の そばに君が居たならば なにもいらない 言葉を封じて
濡れた髪 手櫛で上げて また上げて 溜め息の分 時計は進む
汗ばんだ 肌が絡まる オーガズム 顔がみたくて 細目をあける
淋しいの 体じゃなくて 心かい 問うあなたは 何も知らない
日曜の 夜は早くも 眠り往く 男の闇が 女を揺さぶる
刺青を 施すように 愛撫した あなたが描いた 般若の仮面
2011年07月06日
詩人
詩人
追い越せない季節を
記憶に攫われるような
覗き穴からみた秘密を
焼き付けるような
あどけない笑顔を前にすると
白紙が埋まらないような
あなたは宇宙の余白のような
虚しさをを秘めたままで
海溝の奥底に眠る
マグマの激しさに触れてみるような
感性の旅を続けなければならない
私たちは行間に宙(そら)と海を飼っていて
その隙間から
透明な魚だけを食べて生きています
だからでしょうか
ペンを持つと
必死で空腹を満たすため
文字を紡いで網をめぐらせ
空を仰いでは
真昼の魚座を
捕らえようとしたがるのは
笹舟にのせて
終焉に出来ない恋を笹舟に 乗せて果て往け 彼方まで
流れゆく この魂とこの身体 たどり着けない 貴女の海に
未練という 文字 短冊に書き写し 笹の葉ゆれて 私もゆれて
死にたいと想うくらい 焦がれても 漕げないオールを掴んだままで
雨粒が 脳裏を濡らす暗闇に 昔の君が 零れ溢れて
会いたくて 僕だけずっと会いたくて 君は離れた 悲しい距離に
悲しみを 笹舟に乗せ 流しても 流してみても 沈んで崩れ
2011年07月03日
夢想雨
私の子宮に春雨
薄淡い白雲を覆う粘膜の空
沈黙の物干し竿にとまる湖水
溜め込んだ吐息
シトシトと
冬の憂鬱は流れてゆく
私のためらいは
物干し竿に留まったまま
デジャビュ
白糸のように燦々と降り続く水は
私の横隔膜の隙間から
私の部屋へ入り込み
小さな呼吸を繰り返す
雨は降る
雨が降る
私の子宮に雨が降る
この水面の器から
溢れる涙
さざ波の鼓動
弾ける産声
小さな握りこぶし
嬰児よ
ゆりかごのなかで
新緑に染まる
春を待て