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2011年12月31日
新たな一字
今年がゆっくりと
重い荷物を背負って
通り過ぎてゆく
裾の長いコートを
年の瀬に引っ張るような
未練の風に吹かれたが
あなた方が繋いでくれた
手のひらを握りしめていたら
コートに隠れていた
新年が
私のセーターの胸元から
今年の抱負を連れてきた
あぁ
なんと書こう
この偉大なる
手のひらのぬくもりを
この
未来につながる
夜明け前の
一文字を
2011年12月29日
夜想
夜想
茅の外には蟋蟀がか細い音を
隅々に通わせていた
それは月光に曝された
虫の息
薄明るい十六夜
夜のかたまりが路の端へ流れながら
蒼白く行進してゆく
三叉路の標識に引っかかった
亡霊の衣擦れ
地蔵堂の扉が開いて鬼ごっこ
静かな月祭り
音も無く聞こえる笙の笛
皆を幽谷へ誘う
笙の笛
石を穿つ決意の哀しみは
黄泉路を振り返った
刹那に零した二人の
【あ】の火
無明の眠りから
何かがフッと囁いて二人の
【あ】の火が消え果てる
あるべきものが
在るべき国に還るのだ
おやすみなさい
胸の空洞から念仏が聞こえる
2011年12月17日
祈り
祈り
この細い道のりの
向こう側に
待っているひと
祈り
独りぼっちの部屋で
呟くような
口笛
祈り
一筋の頬を伝う
あなたへの
花咲く涙
遠くに見えた光
君からもらった
生きる言葉
祈り
ともすれば
誰かが
飛ばした
白紙の紙飛行機
(叙情文芸141号佳作作品)
2011年12月15日
詩集がみつからない
詩集が見つからない
君にあげる詩集が見つからない
私の陳腐な言葉じゃ間に合わない
下手なメタファじゃ
真心が独りよがりの余所の国
君の心の隙間に
じわじわと染み込むような
君の鋳型にピッタリ当てはまるような
思わず笑ってくれるような
忽ち愛(かな)しく泣きだすような
文字を探す 探す 探す 探す
何年もかけた秘蔵書に 収集した本棚は
君に想いを告げられない
戸惑い
2011年12月04日
恋愛ごっこ
さっぱりと切った髪を弄っては軽くなった過去にサヨナラ
手折られる花一輪の哀しみを抱いてふるえる冬の陽光
ねぇ夏美 恋って冬至を越えれるの 試して傷を幾つ数えた
初霜に蝕まれゆく花びらのようなあなたの心がみたい
この指輪あなたが噛んだ歯形です今は見知らぬ誰かの傷痕
固いなら約束なんていらないのふるえる指が欲しがるリング
哀しみを重ね塗りする悪戯を教えて重ねた罪木を崩し
囲まれた四角い部屋はいつも夜朝を遮る白い錠剤
寒空に心ひとつ置き去りに透明に濁る君への想い
愛してはいけない人と知りながら背伸びした分キスして欲しい
目を閉じて独りの夜を閉じこめる瞼は火照る君を想えば
2011年12月01日
ハンマー
ハンマー
おいらの家は解体屋だから、難しいことはよくわからねえ。
今日も親方に呼ばれて仕事をする。
扉を叩いて壊す。
瓦礫をトラックに積む。
そうしているうちに、隣近所の女の子が一人、おいらに向かって喋りかけた。
「おじさん。おじさんは、どれだけの思い出を壊してきたの?その家にはある家族が住んでいて、犬を飼っていたよ。おばさんは陽気で近所の人気者、おじさんは大工で家を立てる仕事をしてたよ。その夫婦には子供がいて、子供はお嫁さんになって、また子供を産んだよ。本当に幸せな家庭だったけど、いろいろあって、この家を手放さなきゃいけなくなったの。この家のおじさんは出て行く前日、昔の思い出を語っていったよ。前の池でジャコ取りをした事、大工として腕が認められたこと、一人前になっておばさんをお嫁さんにもらって、この家を建てたこと、子供を産んで親になることの喜び、帰ってくる家の灯りのありがたさ。近所の人の温かさ、孫に帰る故郷のない事実の辛さ。自分の責任のなさ、それらをみんな言ったら、ただ黙って泣いていたよ。それがここの主人の最後の姿だった・・・。」
「・・・・・・。」
「おじさん。おじさんに家庭の事情とか、現実の厳しさなんていいたいんじゃないんだ。
ただ、ただね。家って言うのは、居場所なんだよ。おじさんの持つハンマーは、それを知って使っているの?」
「・・・・・。」
「ごめん。責めてる訳じゃなくって、ただ、見晴らしが良くなりすぎて、私、とっても悲しかったの。
そして、知ってて欲しかったんだ。同じハンマーを持つ人間が壊すことも、創り出せることもできるという事を・・・ちゃんと、・・・知ってて欲しかったんだ。」
「・・・・・。」
「ねえ、ここにもいつか知らない家族が越してくるんだよね。・・・・新しい家が…建つ日がくるんでしょうね・・・。」
おいらには難しいことはわからねえ。
今日も親方に言われたように仕事をする。
ただ違うのは、右手のハンマーがいつもより少し重いこと。
※(詩と思想新人賞、第一次選考通過作品)