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2012年04月25日
恋人へ
恋人へ
恋人と呼んだ響きが悲しくてアドレスを消す泣くな親指
春めいた今より過去がせつなくて胸には虚空 瞳になみだ
君の名を真夜中に探す淋しさにくるまりながら泣いてしまおう
好きだった二人ぼっちの春の日々独白ばかり空に帰す夜
自然流通
自然流通
深淵なる夜の
向こう側の空に
数多の風と雲を
数え上げ
ただ流れゆくまま
生きてゆく
在りし日の
あるがままに
あるがままの
自分のかたちで
密会
密会
エイプリルフールが記念日
月夜に時雨に濡れたい
酸素の足りない発情期
薄目をあけたら唇に嘘
伝言板は暗号で挨拶
ご主人様は入退院
傷が疼く 脚を伸ばす
東京と京都との距離をSkype
情欲儀式は忍耐でkeep
沈黙は薔薇一本で饒舌
ボディレンタルの利用
イラつきの帝国は崩壊
了解。
栞
読み終えたら
いつか棄てられる本
例えば
本棚の片隅で埃にまみれて
タイトルが消えてたり
例えば
字の樹海に押し込められたまま
迷子になって泣き続けていたり
ましてや
ビニールテープで
ぐるぐる巻きに固められて
あの世に運ばれたり
そんな簡単なピリオドを
待ってたわけじゃない
もの言わぬあなたの
愛蔵書(こんせき)を旅するのが好き
一番好きなフレーズに
抱かれて眠るのが幸せ
あなたが もう
そのページを開くことが
叶わなくても
大切にしている行間に
私を挟んでくれたなら
文字の森の隙間から
一番星を見つけだし
薄い私を照らし出す
光に抱かれて眠りたい
2012年04月02日
sugar
甘い声で囁いて
あなたは私を溶かすつもりね
銀のスプーンで愛憎喜劇をかき混ぜて
コップの底に残っているのは
あなたの寛容すぎる真心だけ
あなたが飲み干してくれたのは
先走る私を
零れないように
癒してくれる
薄いくちづけ
午後三時の
マグカップの中にはレモンティー
ちょぴり酸っぱい世間から
すくい上げてくれたのは
いつだって
喉に染み付く甘さとゆとり
柔らかな日差し
指先二本の恋に
掻き回されて
私は素直に溶けてゆくけれど
いつかあなたが
疲れたときには
甘やかして笑わせて
眠らせてあげれる
私になると誓うわ
無題
私は焼けた砂場ではなく
夜中のブランコです
私は冷えたポカリスエットではなく
なかなか落ちない点滴です
父は冬の岩場ではなく
昔 井戸に置いてあった洗濯板です
母は向日葵ではなく
夕暮れに沈む太陽です
町の人は言います
「ああは、なりたくないもんだね…」
町の人は歩きます
私たち家族には
全然追いつけないスピードで
笑いながら
喋りながら
だから
カーテンを閉めます
耳栓をして目隠しして
家族仲良く暮らせるように
墓を掘りました
その墓碑名に刻んだのは
関係者以外立ち入り禁止
方舟
方舟
愛していると憎しみは
燃える薔薇の孤独と棘
記憶の中のあなたに
恋い焦がれても
錆び付いた絆の扉は
赤銅の鎧を
纏ったまま動かない
枯れ果てた涙を
引き寄せる手段の言葉は
方舟にのせられたまま
紀元前をさ迷っている
見送る
見送る
結婚は人生の墓場。
お母さんはなぁ、お父さんに騙されてんでぇ。仲人のおばさんがどうしてもって言うから、結婚したってん。
それまでお母さんはなぁ、大覚寺で生け花の師範を取り嵯峨流の看板も持っとる。
あんたにも、昔に見せたやろ。
お茶は裏千家一筋。
東芝で働いて、ずっと独身を通すつもりやったのに、お父さんと結婚したばっかりになぁ。
お母さんの体も人生もガタガタや…。
それは母にとって真実なのであろう
けれど
今 私の肩に片手をのせ
もう片手でズボンを掴み
バランスをとらなければ服が着られなくなった母
掴んだ肩にのしかかる
母の手のひらの悲しい重み
あぁ…お母さん
歌はじめ
歌人たちが華やぐあの異郷の地に赴く
安い服を着た背中の曲がった
白髪混じりのおばあちゃん
彼女の見送ったものは
何だったんだろう
私が
今 見送った あの人は
一体 誰なのだろう
詩と思想4月号入選作品