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2013年03月11日
はぐれる
はぐれる
それをして楽しいですかという人に楽しいですよという寂しさ
暗闇に電球の灯りひとつだけ世界に響け携帯の指
悲しみを足しても割れぬ性格を瞳を閉じて飲む錠剤
悴んだ指先ひとつ燃える火を怒りと呼ぶな号泣と呼べ
朝が来るいつものように朝は来る起きてる夜に私は亡霊
静寂に包まれ身体はコチコチと骨を削る音(ね)時計コチコチ
うまくやれうまくやれよとよわたりをうらもおもてもあるいてわたれ
置き時計短針長針ずれてゆくそんなふうにはぐれ外され
僕の声叫んでみても憎しみが飛び出すだけの冬の空き部屋
抒情文芸 146号 春 小島ゆかり 選 佳作短歌
それをして楽しいですかというひとに楽しいですよという寂しさ
抒情文芸 146号 春小島ゆかり 選佳作短歌
携帯を濡らす
携帯を濡らす
あなたの為に携帯を濡らす
秋の力ない弱い日差しから
聞こえるあなたの
柔らかで 穏やかな声が
枝枝の葉を 全て色づけて
あとは 風に散りゆく運命を述べたから
あなたのいなかったモノクロの世界から
この世界の美しさを 文字で彩って
私に言葉に直して 声に出してくれた人よ
あなたが 時の風に連れ去られても
同じ木に寄り添った
葉たちのことを思い出して欲しい
まだ
残響するあなたの
穏やかな哀しい非命に
携帯の画面を濡らすことを
赦して欲しい
この携帯が あなたの墓標
もう だれにも
あなたを見せたくはない
わたしは 涙に濡れた
ディスプレイを閉じて
平らな器に 水を貼り
静かに 携帯の
息をとめるように
あなたを 沈める
抒情文芸 146号 春
清水哲男 選
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