2014年09月09日
私を待つ
詩を待つように 私を待つ
たとえばバス停
駆け込み乗車して
時間に運ばれていく人と
置き去りにされる私
発車したバスがベンチから遠ざかるスピードで
私たちの溝はできてゆく
同じ街まであなたを
追いかけてきた情熱に
私は乗り遅れてしまったのだ
じろじろと私の荷物の中身を
透視しようとする
小賢しい人混み
私は守る
私の住民票
私だけの記入欄にいる あなたの名前
真実味を帯びた嘘みたいな名前
大切に抱えて 泣き出したのは
私があなたを追いかけすぎて
私を 見失ったから
私は 一枚で二枚の紙切れになりたかった
いつかは 名前ごと
燃やされるのだから
あなたと 灼かれたかったのに
バス停で産まれた孤児が
柔らかな詩をかくように
「私」をお待ちなさい、と
また この時刻に服の裾にしがみつくので
もう一人の私が
産声を…
発車させてしまうしかない
抒情文芸 清水哲男 選 入選作品
投稿者 tukiyomi : 2014年09月09日 10:09
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