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2016年07月26日
生きた亡者
コトバだけで世界をつないでいく、そんな嘘くさい指切りをして
あなたの色つきの夢の先に、私はいない。
コトバだけで生きる人は 骨の分量の重さを 世界と言い、
あなたは、夕陽を溺れさせる、空と海の狭間を歩きたがるし、
コトバは世界を酔わせ、世界を沈める、という、駆け引きを持つ。
あの赤さくらい、あの大きさくらい、背中の影が濃く伸びていたら、
コトバをを焼き尽くした、あなたの、
ノドボトケを、私にくれますか?
本当のことは、夕陽のように燃やされて消えてしまう、
あなたも、わたしも。
言えないコト、を埋没させることだけが得意になりました、
「世界には骨が似合う、」
と、いう、コトバを遺して。
詩人は墓を遺さない、墓というコトバを埋めていく。
詩人は世界を多く持つ、全部海に還すことも知って。
理屈だけが、まだ寄せて返して、浜に投げ出されている。
※
コトバはかき混ぜられた、シロップ、もう、透明ではない。
濁ったシナリオだけを、書き上げたノートの、かなしみ。
はじめは白かったものに、テーマを与えたら、「汚れた」、と
世界は嗤って、そして、つぶやいた。
私たちは、生きた亡者。
汚れたノートを海で洗濯して、溺れてしまう者、
私たちの撒いた骨はノートと世界を漂白する/漂泊する。
(指切りは、裏切られる/寄せて返す、打ち寄せる、熱の波音。)
混濁した物語の果てに、手を振る最期の人よ、
私に、灯った、あなたの、声と炎、に、
どうか/憎しみのように消えない/名前を。
/、の、/愛する/「世界」に。
ブロンズ少女
幼い頃に頭を撫でてくれた手のひらたちは
引っ繰り返され
彼女を叩たり、指さした
(公園で、一人、少女が濡れている)
常識の文字を見つけると丁寧に赤丸で囲みながら
恐る恐るみせた答案用紙
先生たちが出した答えには非常識と赤字で書かれた
(公園で、一人、少女が濡れている)
幸福の王子は全身金箔だらけで ルビーやサファイアを身に纏い
公園で人々の哀しみを眺めて泣いていたという話を知っていますか?
でも最期に遺っていたのは小汚い痩せた親友のツバメの残骸、と
デクノボウになった自分
(公園で、一人、少女が濡れている)
どこにも帰れないブロンズ少女。傘もささずに固まったまま濡れている。
本当は赤いルビーの瞳で夕日が沈む一日を終えたかったかもしれない。
サファイアのような海を目指したかったかもしれない。ダイモンドが灰に
なるまで、誰かについて行きたかったかも、知れない。
けれど、
少女が一人、デクノボウ
突っ立ったまま固まって、動けないまま濡れている
駅前公園では若い女性議員が一人、車上からの立ち演説。
市民は同意、同意の、大賛成。激しい雨音の大拍手、の中で
呼吸ができないブロンズ少女。病院に行けない少女の胸から
赤い血がどんどん流れて青くなる。倒れてもどこの誰だか、
分からない。身元も不明、町の市民じゃないかもしれない。
だから、だから・・・/だから?
人々が望む「平和」と「幸福」が、高い位置から挨拶すると、
彼女だけを置き去りに「政策」だけが、歩いて行った。
2016年07月14日
樹海の輪
カラカラと糸車を誰かがまわしている
その糸車の糸に多くの人の指が絡みつき
血塗られた憎しみの爪をのばしたり
いびつな恋敵の小指たちが
ピリピリと過去の妄念に反応して
親指は絞め殺されるように働きながら
天に一番近い中指に嫉妬しながらも
糸を燃やそうとする
カラカラと糸車はまわる
それは乾いた土地であり
それは渇いた喉元であり
蜘蛛の罠に引っかかった蝶が
食いちぎられていく羽の墜ちる音(ね)
最期の 悲命(ヒメイ)
* *
(カラカラカラカラ・・・)
* *
さっきから大きな毒蜘蛛が樹海を編んでゆく
その下を長い大蛇が這ってゆく
細かい切れ間から もう 青空は望めない
蛇の腹の中で元詩人たちの群れが
溶けて泡を吐く
見えない空
地上にない文字
樹海にはそうゆうものたちが浮遊して
死人たちがそれらを夢想して
この樹海を成立させているのか
乾いた音だけが響いてくる
* *
(カラカラカラカラ・・・)
* *
誰かが糸車をまわしている
けれど
その糸にしがみついた多くの紅い情念たちが
歯車を狂わせてゆく
糸車をまわしていたのは誰だろう
それは 樹海をでっち上げた白い骨の妄念
散り散りになった散文詩
痩せた木の葉たちが 風に吹かれながら
くるくる回り続け
重い陽差しの切れ間を脱ぐって
やがて 土に還る
(カラカラカラカラ・・・)
(カラカラカラカラ・・・)
神は
呼吸をするのを
やめたらしい。
シャツ
白いシャツを着せられていた
脱ぐことも赦されなかった、そのシャツを
声を発するごとに
胸の真ん中についた、赤いしみ
どんどん大きくなっていく、赤いしみ
(人とすれ違うごとに
(人の隙間から見えた始まりと終わりに
(人を見失うたびに
出会った声と同じだけ 見送る夕焼けたちは
胸の真ん中で もっと大きな夕陽になって
赤く燃えては 沈んでいった
誰のシャツを私は着せられていたんだろう
誰の夕陽を抱えて生きていくのだろう
そして 一体、このシャツを
誰になんと言って 渡せるだろう
シャツを赤くにじませて
私はどこに向かって いつまで
歩いていかねば ならないんだろう