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2016年09月26日
東京
乳の出なくなった母豚が
子豚を育ててくれるという、
やさしいニンゲンに預けた
彼らは 何もできない痩せた子豚を
段ボールの中で育てた
しかし 相変わらず豚は、豚
ただ 闇雲に食べるしか能がない、豚
段ボールが破裂しても
豚はまだまだ食べ続けた
ニンゲンは 予定通り
豚を殺して何日もかけて食べた
乳の出なくなった母豚は
子豚が闘牛になるような夢を描きながら
暗い 豚小屋に横たわり
豆電球の明かりのような 希望を灯した
2016年09月19日
月曜日の人
月曜日に来た人は とても穏やかな顔をして
私の頭を撫でてくれました
月曜日に来た人は 火曜日には火遊びの仕方を
私に教えてくれました
月曜日に来た人は 水曜日私の小言を片付けて
流し台から捨てました
月曜日に来た人は 木曜日自分の生い立ちを
初めて私に語ってくれて
金曜日 「仕事もないし金もない」と告げると
私の前から消えました
月曜日に来た人が 土曜日に土に還ったと噂が流れ
私は日曜日に はじめて独り休暇をとりました
(何という名前の人か、どんな生活を二人でしたか、
(もう、思い出せないけれど。
月曜日に来た人は 遺書を遺しておりました
(君もまた、月曜日に生まれて 日曜日に迎えられる)、と。
一本道みたいな たった一行、
当てのない行き止まりを 私に遺して逝きました
2016年09月17日
指
声でなく君の姿が欲しい日に空の十五夜指で突き刺す
ギター弾くピアノも奏でるその指が昨日を歌う夜の顔して
約束の指切りよりも正直な顔をしてると指差すあなた
その指が何本あるか数えてない暗い夜道を彷徨う身体
昨日だよ昨日だよって呼びかける明日の指切りできない二人
沈んだり浮上したり泳いだり地上と海をつなぐ中指
死ぬ時が来ても絡めた赤い糸蝶々結びくらいの束縛
夜の雲月を隠してどこまでも暴かないまま追いかけてきて
ひと声もあげず耐えて忍こと今生の恋すら戦国時代
対岸で君は返してくれという指が奪った記憶の手触り
未来の魚
父は生きる 沈黙の中に
母は語る 夢のような言葉
私は横たわる 足りない絶望を枕にして
川の字になった 冷え切った水槽の中
打ち上げられた魚を三匹
飼って眺めて笑っていたのは
水槽を覗くいびつな
薄笑いの目 目 目 目
金貨で競いたがる噂話
コインで 家族を秤にかけた優越を
父の呻き声がかき消して
母のヒステリーが口から火を吐いて
私たちの水槽がパシャリと軽い音で弾けた
川の字なんて はじめからなかった
まして 川で泳ぐ水すらない
ただ 今度生まれ変わるなら
人にさばかれる魚ではなく
家族三人 一つの田に植えられた
秋の稲穂になろう
実がなるほどに 頭を垂れ
人の糧となり 人を満たせる
秋の夕陽に映えた
沈黙の 幸せを握る
金色の 稲穂畑の
一粒にでも
(四年前の過去詩です。)