2020年12月01日
唄
最もよき者は攫われてしまった*
よき者の言葉は封じられ
足並みをそろえる、その旋律だけは大切にされた
皆、同じ顔をして右を向き前に倣う
*
── 唄は、
ほら吹き、笛吹き、炎吹き、
人々は群れ成し、肩組み、唄を歌い、姿消し、
── 唄は、
寝た子を起こす子守唄
親の声だと信じる子供
(騙されてはいけないよ!
(あれは人さらいの笛の音!
叫んだ者たちは喉を潰され書いたものは指を折られる
抗いようもない巨大なメロディーが頭から浸入して
足裏を断崖まで運ばせない道の上を歩かせた
── 唄は、
広大な大陸で帝国を作りあげ
極寒の魂は白鳥に身をやつして岬で嘶き
地雷で吹き飛んだ脚、
長靴の音だけ残る国
*
最もよき者の声も攫われて帰らず
残れる者の頭もまた、攫われて返らず
歳月を背負い 傾いた空の下
嘯いた笑いを浮かべ 生涯を費やし
諳んじる唄に唇をかむ
朝の光が頭を撫でてくれるまで
死んだふりなどしてみれば
瞼の海から
唄がこぼれる
*最もよき者は攫われてしまった
フランクルの「夜と霧」よりヒントを得た一文。
投稿者 tukiyomi : 2020年12月01日 21:24
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