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2005年07月19日

ときどき

 ときどき、死んでもいいから、こういう詩を書いてみたいと思う詩には出会うことがある。しかし、本当に
面白い文章やお話にこの頃、出会ったことがないと考えていたわたしは度肝を抜かれてしまった。図書館の一階は絵本を読む場所で、小さい子たちと、ちいさい椅子に腰掛け、これも、小さいテーブルで世界一豊富だというこどもの本を読んでいた。
 その絵本はジェニーという女の子が食卓に座っていて、向こうの壁にモナ・リザの絵がかかっているのだが、吹雪純そっくりに微笑んでいて、まるで愉快なのだ。
 「はじめ、ジェニーには なにもかも そろつていました。2かいには まるいまくらが、1かいには しかくい まくらが ありました。くしが ひとつと ブラシが ひとつ、のみぐすりが ふたつ、めぐすりが ひとつ、みみの くすりが ひとつ、たいおんけい 1ぽん、それから さむいときに きる あかい けいとの
セーターが 1まい。そとを ながめる まどが ふたつ。しょくじの おわんが ふたつ。かわいがってくれる ごしゅじんも いました。でも、ジェニーは たいくつでした。」そこで、ジェニーは きんの とめがねが
ついた黒い鞄に一切合切つめて、お気に入りの窓から、景色にお別れわ告げました。
「なにもかも そろつているのに」と植木鉢の花がいいました。花も、同じ窓からそとを眺めていたのです。
ジェニーは、葉っぱの一枚噛みちぎりました。「まどだって、ふたつ」花はいいました。「わたしの 窓は、
ひとつだけ」ジェニーは ためいきを ついて、はつばを もういちまい 噛みちぎりました。はなは、いいつつげました。「まくらが ふたつ、みみぐすり ひとつ、のみぐすり ふたつ、たいおんけい いっぽん。かいぬしも かわいがってくれる」「そうよ」といつて、ジェニーは つきづぎに はっばを 噛みちぎりました。
 ジェニーは、はつぱで くちが いっぱいなので、ただうなずきました。「なのに、どうして でていくの?」
 「それはね」ジェニーは、花を くきごと かみ切りました。「たいくつだから。ここには ない ものが
ほしいから。なにもかも そろつているよりも もつと いいこと きっと ある!」花は、もう なにも いいませんでした。 なにも いえなくなったのです。
 ひらがなでかいたり、漢字で書いたりしたけれど、これがモーリス・センダックの「ふふふん へへへん
ぽん!」——もつと いいこと きつと ある——の最初の2頁です。世の中にこんなに面白い本があるとはしらなかった。もうおわかりとおもいますが、このヒロインは犬なのです。この犬は冒険の旅の末、
ハルカノシロの世界劇場の人気女優になるのだが、おもしろいことに、このジェニーははじめ何もかもそろっているのに、経験だけがないので、主演女優になれない。赤ちゃんの身代わりに食べられようと
ライオンの口のなかに、自分の頭をつっこむという勇気にみちた行為をする経験を積んだため、世界劇場の主演女優に抜擢され、毎日好物のサラミソーセイジのモップを食べる役を与えられるのです。
あっはつはつは。これほどねめちゃくちゃで、爽快な物語をよんだことがありません。(つづく)

投稿者 yuris : 2005年07月19日 00:01

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