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2009年09月04日
政治 キャロル・アン・ダフィ 英国王室桂冠詩人
政治 Carol Ann Duffy 熊谷ユリア訳
一体どうやったら、あんたの顔を、
痛みで啜り泣く石に
変えられるのか。あんたの心臓を、
ズキズキと血の汗を流す
固く握りしめた拳に変えられるのか、
あんたの舌を
扉のない掛金に換えられるか
※
全くわたしの大好きなキャロル・アン・ダフィは英国王室桂冠詩人になってしまった。あの反抗的な、夜
のしずかな窓をあけ、あなたを愛していますなんていっていたうら若い女が男と一緒になって、タマネギ
なんかあげていたり、マンハッタンの高層ビルから裸で手をふっていた彼女があっという間にシングルマザーになり、レスビアンにもなり、大学教授にもなり、おデブちゃんになり、王室のローリエ詩人になってしまった。現代は少しもゆっくりさせてくれないらしい、彼女もおばあちゃんになったり、わたしもおばぁちゃんになったけれど、シルビア・ブラスのように悲劇的になりたくはないと思っていたら、その息子はどこか
地球の寒い寒い場所で凍え死んでしまった。これほど過激になることはないと思うけれど、しかし、この
単純な詩を書く詩人はちょっと女の人でも怖かったのです。
投稿者 yuris : 2009年09月04日 04:01
コメント
イギリス史上初の女性桂冠詩人が誕生したのですね!
わたしも彼女の詩が好きです。
プラスの激しさは、もしかしたら強さでなく弱さだったのではないかしらと、ふと最近になって思いました。繊細なところがたまらなく好きなのですが、私自身が前期高齢者へと生きのびたせいでしょうか、ダフィーやアドリアンヌ・リッチなどの大地を踏みしめているような感じへの憧れが大きくなりました。
わたしもどっしりとしたお婆ちゃんになりたいなあ~
投稿者 yuki : 2009年09月16日 19:52
そうです。
プラスの「ベル・ジャー」はただごとではないほど怖かったのです。
「ダディ」だってなんだって怖いのです。それは死を恐れぬ怖さ
だったのです。詩人になることもこわかったのに、あんな詩人が
いることも怖かったのです。ところがスコットランド生まれのダフィ
は絶対に自分から死ぬなんてことはないし、とにかく強靱です。
しかし、彼女のストレートさがちょっといかさないというか、わたしも反抗的なのに、どうしてか暴力を否定しようとするのに、暴力
的なことばを使ってしまうところがちょっとダサイのではないかと思うのですが、なにしろまだ英語で完全には翻訳されていないのでよくわからないのです。
投稿者 aoi : 2009年09月18日 01:15
「something」でのわたしの詩を批評頂いてありがとうございました。小品に目を向けてくださったこともとてもうれしかったです。ところで、Carol Ann Duffyのことが書かれていたので、思わずコメントします。2005年のT・S・エリオット賞の候補作家が集まった舞台で、彼女のリーディングを始めて体験しました。もうなんか「熱」が違うというか、圧倒的でした。結果的に彼女が受賞したのを知ったのは、だいぶ後でしたが、とても大切な想い出です。現在ロンドンに居るのですが、地下鉄の広告(Poem on the underground)で彼女の作品に再び出会い、その痛烈なユーモアに、眠たい気持ちがぴりっと引き締まりました。
投稿者 小野原 : 2009年11月15日 13:19