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2009年09月16日

「二本の足が自分の家なのだとあなたは言った」田口犬男

二本の足が自分の家なのだとあなたは言った チェ・ゲバラに 田口犬男(世界を新しくする恐るべき詩)


1(自分が誰なのか分からないので)

自分が誰なのか分からないので
ぼくたちは
知ろうとするのだ
せめてあなたが誰だったのか

2(捧げられた幾千もの詩行の中に)

捧げられた幾千もの詩行のなかに
あなたは蹲っている
美しすぎる修辞に塗れて
あなたは身動きがとれない
愛の言葉が喉につかえて
あなたは息をすることが出来ない

3(闘牛士のような眼で)

闘牛士のような眼で
あなたが睨み付けたのは
猛牛ではなくて 歴史だった
間に合わせの武器弾薬と
あふれるほどの愛

自分はいったい誰なのか
歴史が歴史自らに
尋ね始めた

4(二本の足が
  自分の家なのだとあなたは言った)

二本の足が
自分の家なのだとあなたは言った
川の辺(ほとり)で
青空の下で
ジャングルの奥地で

その家は
胡座をかき
立ち上がり
ときに跪いた

家には窓がついていて
いつでも世界を窺っていた

5(愛と怒りで
  充分に満たされていたので)

愛と怒りで
充分に満たされていたので
風船は空へと吸われていった
より高い所で
破裂するために

だが今では人が破裂している
澄み切った眼差しで
時に穏やかな
微笑さえ浮かべて

6(大地は飲み込んでいく)

歴史を傍観する傲慢と
歴史を動かそうとする傲慢が
せめぎ合っている

大地は飲み込んでいく
勝利を 敗北を
砲弾を 野の花を
数え切れないほどの死者たちを

大らかに咀嚼して
ゆっくりと飲み下していく
だが飢えは
いっこうに治まる気配がない


7(星は行き倒れた)

星は行き倒れた
ボリビアの山中の苦い村で
夢の瞳孔が開いた

座礁しなければ
辿り着けない遙かな岸辺に
あなたは打ち上げられたのだ
虚空を見つめ続けたまま
全身で全世界を映す
鏡になって

8(山が連なるように
  人が連なることは出来ないか)

山がつらなるように
人が連なることは出来ないか
木々が目覚めるように
人が目覚めることは出来ないか

川は夢中で流れていた
影はゆっくりと落ちていた
誰も叫んでいないのに
山から谺が帰って来た

9(死んで良かったことがひとつある)

死んで良かったことがひとつある
それは喘息が治ったことだと
あなたは笑いながら言うだろうか

銃口を向けられることも
銃口を向けることも最早ない
怒りに震えることもない

だがあなは密かに眼を凝らしている
遠く煙る地上の未来に
山が連なるように
そこでは人が連なっている

 

投稿者 yuris : 2009年09月16日 17:36

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