« 2010年10月 | メイン | 2011年01月 »
2010年12月13日
金芝河(キム・ジハ)「あの遠い宇宙の」 びっくりするほど好きな詩
あの遠い宇宙の 金芝河 翻訳・佐川亜紀・権宅明(クォン・テクミョン)
あの遠い宇宙の どこかに
ぼくの病をわずらう星がある
一晩の荒々しい夢をおいてきた
五台山の西台 どこかの名の知れぬ
花びらがぼくの病をわずらっている
ちまたに隠れ 息を整えているはずの
ふしぎなぼくの友だち
夜ごと病むぼくを夢見て
昔 袖ふれ合った ある流れ者が
ぼくの中でクッをする
女ひとり
ぼくの名を書いた灯籠に 火をともしている
ぼくはひとりなのか
ひとり病むものなのか
窓のすき間から なぜか風が忍び込み
ぼくの肌をくすぐる
五台山……韓国東北部にある名山。上から見ると五つの峰が蓮の花のような形
をしている。
クッ………供え物をして踊りを踊ったり呪文や神託などを唱えたりして、村や
家の安泰、病気の治療などを祈ること。
詩集「中心の苦しみ」から
高見順「出発」 びっくりするほど好きな詩
出発 高見順
夕暮れに一日がおわるとき
同時に何かが終る
一日の終りよりももっと確実なものが
同時にもっと夢幻的なるものが
それに気付いたとき
生きるといふことがはじまつた
1949(昭和24)日本未来派22号
佐川英三「蟹」 びっくりするほど好きな詩
蟹 佐川英三
ふりかざした小さな蟄(はさみ)に
荒涼たる海が迫っている。
蟹はその傲慢な甲羅をふるわせて、
怒りに燃えている。
垂れ込めた雲。
閃く稲妻。
何か、
異常なるものが来たるらしき、
晦冥のとき、
砂は、
洗われ洗われて
若い静脈のように濡れている。
1949(昭和24)日本未来派27号
2010年12月06日
仲嶺眞武、四行詩「宇宙」 びっくりするほど好きな詩
四行詩「宇宙」七篇 仲嶺眞武
1 木や石を見ていて
木を見ていて 石を見ていて、思う
木や石は宇宙の分泌物であるに違いない、と
そして、思う
私もまた、宇宙胎内の一粒子であるのだろう、と
2 存在と時間
存在とは、時間というカンバスの上に描かれた絵である、と君は言うが
存在は絵だろうか? 時間はカンバスだろうか?
存在と時間は、人間の意識によって構成された現象ではないだろう
存在は宇宙が生み出した万物であり、時間は宇宙の心臓の鼓動であろう
3 少年、発情す
性欲が高進し、少年の私は発情する
脳髄が全部、性感帯となっている
ああ、少年の私を悩ますこの性欲は、どこから起こってくるものなのか?
宇宙よ、あなたの生理によるものだろうか? わが存在の母よ
4 宇宙の前で跪く
人間の足は何のためにあるのか?
それは、地球上を二足歩行するためのものであろう
だが、それだけのことだろうか?
人間の足、それは、宇宙の前に跪くためのものであるだろう
5 宇宙の中の人間の言葉
至聖至高の存在として彼は語る
彼の言葉を聞け、と君は言うが
彼の言葉は小さい
宇宙の中の、人間の言葉は、小さい
6 立ち枯れても
立ち枯れ、という言葉が、思い浮かんできた
地上で立ち枯れている自分の姿を想像する
老耄、既に、立ち枯れの状態である
だが、私と宇宙との対話は、まだ続いているのだ
7 棺は宇宙に抱かれている
私は死んで、棺の中に納められた
棺の中で仰向けに横たわり、目を閉じていると
棺は宇宙に抱かれている、と感じた
棺の中のわたしの魂は天には昇らず、宇宙の奥へと運ばれて行くのだ、と思った