お店の入り口に四角い流し台のようなものが置いてある。ぼくはその蛇口をひねって、コップを洗っている。だが、洗っても洗ってもコップはきれいにならず、泡立ったままだ。変だなと思って、周りを見回すと、ほかの人たちも蛇口をひねって、コップを泡で満たしている。それは水道ではなく、ビールの注ぎ口だったのだ。赤面して店の奥に引っ込む。だが、みんなの視線がぼくに突き刺さるように感じる。そういえば前にも同じ失敗をしたことがあった。ああ恥ずかしい。
名古屋の東山公園の奥の地下鉄の駅のホームにいる。地下鉄と言ってもここは電車が地上を走っているので、駅も地上にある。それにまだ都市開発が進んでいないので、周囲はススキが生い茂り、山また山の地形だ。地下鉄はこの駅が終点なので、入れ替えて別のホームに入線するというので、かなり無理をして高さの違うホームへ乗り移る。見ていると山の間を円を描いているレールを、入れ替えのため地下鉄が走っていく。鼻が超音速ジェット機のように長い超モダンなスタイルをした地下鉄だ。その長い鼻の部分がカクッカクッと上下して、複雑な動きをしながらトンネルに潜ったり、また地上に現れたりする。
ついにその地下鉄がホームに入ってきた。この地下鉄はお弁当付きで、座席の一つ一つにお弁当が置いてある。既に乗り込んだ乗客もいて、蓋のあいている弁当箱もある。ぼくは入り口近くの席に慌てて座ろうとするが、怖いおじさんに「おれの席だ!」と凄まれる。さらに進むと、小さな男の子と若い母親の向こうの一番奥の席が空いている。「そこ、空いていますか」と尋ねると、二人はにこにこと「空いていますよ」と答える。喜んで腰を下ろしてみたものの、お弁当は男の子が食べてしまったらしく、既になかった。
気がつくと、ぼくの座席だと思ったのは、四人の人間が折り重なって人間椅子になっているのだった。そのうちの一人の男はもう一人の女に執拗に復縁を迫っている。そして、ほかの二人はぼくに「お恥ずかしいところをお見せして・・・」と詫びる。ぼくは「いいですよ。ぼくは慣れてますから」と答える。
外は早朝らしく、窓から見える山やススキの原には深い霧が降りている。車内アナウンスが「このあたりは海から○○キロと遠いのに、海の影響で朝には霧がでます」と放送している。と、電車は直角に近いカーブを切って、山の方に進む。そこは砂漠に近い岩山で、風景ががらりと変わってしまう。窓の向こうを趣味の悪い巨大なモニュメントが過ぎる。そして、その隣に「劇団ラブ 詩劇上演記念」という小さな石碑のようなものが置かれているのが、ちらりと目に入る。ぼくは驚愕する。あれはぼくが40年前に、「劇団ラブ」という学生劇団を作って詩劇を上演したとき、確かにその記念にとそこに置いたまま、忘れていたものだ。
(劇団ラブを19歳のときに組織して詩劇を上演したのは事実です。最近、ラジオ詩劇についてのエッセーを書いていて、急にそのことを思い出したのが、夢に現れました)
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