ベッドの並ぶオフィス

 女性ライターのFさんと待ち合わせをした。彼女がとんでもなく早い時刻に待ち合わせようというので、早起きの苦手なぼくは、それより30分遅い時間を指定し直す。しかし、当日になると、ぼくも心配になって30分前に待ち合わせ場所に着いてしまい、ぼくの指定した時間に出かけたFさんファミリーとは結局会えなかった。
 しかたなくぼくは会社に戻った。会社はデスクのかわりに、ホテルの一室のように三台のベッドが並んでいる。空いていれば誰でもそのベッドを使っていいのだ。ぼくもベッドに潜り込んで、そこからFさんに電話をかけ、会えなかったことを詫びる。すると、Fさんのお母さんが「私には一色さんの後ろ姿が見えたよ」と言う。それをきっかけに電話の向こうで、Fさんとその妹、お母さんとの間で「じゃあ、なぜ教えなかったんだ」と三つ巴の大喧嘩が始まる。ぼくが「随分賑やかですね」と話しかけてみても、誰も受話器に注意を払っていないらしく、誰も答えようとせずに、喧嘩が続く。
 しかし、Fさんの指揮者デビューは成功だったらしい。「すぐリズムパターンを描くだけの指揮になっちゃうんですけどね」という話ではあるが。

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