クライアントのW氏と取材のため、地方のホテルに宿泊している。いざ出発しようとして、W氏と出かけようとしたとたん、自分がスリッパのままだということに気づく。しまった。もうチェックアウトしてしまった。W氏に理由を説明して、フロントに急ぐ。フロントは行列ができていて、並ばなければいけない。やっと自分の番が来て、「○○号室の一色ですが、部屋に靴を置いてきてしまって・・・」と言うと、フロントの男は落ち着いて、奥の棚からぼくの靴を出してくる。ぼくは大喜びで「それです、それです」と叫ぶが、男はすぐには返せないと言う。ぼくは怒って、「では、靴屋へ行けというのか」と怒鳴るが、男はぼくの耳に口を近づけ、声をひそめて「あと10分待て。女房が帰ってくるから」と言う。
しかたなく、ぼくはスリッパのまま駅に行く。駅ではホームの前で、W氏が椅子に座って待っている。ぼくも坐ろうと、別の椅子に腰掛けるが、その椅子はひっくり返り、ぼくは泥まみれになる。そのとたん、そこにはベッドが出現し、ぼくはベッドと壁との間に押しつけられる。ベッドには病気の男が寝ている。ぼくはそんな窮屈な中で、緑色のネクタイを締める。ベッドの男は寝床の中から、もう一本緑色のネクタイを取り出す。W氏が「それはぼくのです」と言って、彼も緑のネクタイを締める。
そこへホテルのおかみさんが帰ってきた。おかみさんといっしょに、ぼくはいよいよ自分の靴を取り返しに行くのだが、実はそれは靴ではなく、ぼくの心臓なのだ。そして、ぼくの心臓は長老詩人のI氏の体の中に入ってしまっている。それを取り戻すにはある儀式が必要だ。大きな川が流れており、その向こう岸に足を水につけて、白髪を振り乱した長身のI氏の姿が幽鬼のように見える。二人の女と一人の男によるロックバンドが儀式をやってくれるらしい。彼らはヤクを飲み、裸体になって踊りながら、幻想の世界に入り込む。まるで降霊術だ。こんなことで、ぼくの心臓は無事に取り戻せるのだろうか。
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