7月20日の夢(線路の向こうへ)

 詩人のA氏と山手線に乗っている。ドアのところで床に腰をおろし、ぼくは疾走する車内から外に両足をぶらぶら垂らしている。しかし、さすがに危険なので、引っ込める。A氏が「あの本の名前は何でしたっけねえ。木曜日にTさんがニューヨークへ行かれるので、向こうで評判を聞いてこられるそうですよ」と言う。振り向くと詩人のT氏も同乗していたのだった。A氏は「じゃあ、Tさんがお帰りになったら日曜日にその報告を聞きましょう」と勝手に決めてしまう。ぼくは土曜日が研究会なのに、連続で出かけるのはつらいなあと、ちょっと不満に思う。T氏はひとことも言わず、いつもの温和な笑顔のまま、次の駅で降りていった。
 ぼくはこれから編集部に出社するのだ。それまでにアンケートに答えなければいけない。ちょうど編集部の持ち物であるオフィスがあるので、そこへ入ってデスクに向かう。そこはめったにぼくらが使わないため、他社の若い社員たちがにぎやかに談笑しているが、ぼくらの所有物であるのは間違いないので、構わず最後までアンケートの解答欄を埋めていく。
 二階にあったそのオフィスを出て、下の通りでタクシーをひろう。ふとリアウィンドウから後ろを見ると、他の車とトラブルを起こした男が刃物を振り回している。男はぼくの乗ったタクシーに手を伸ばし、乗り移ろうとする。「危ない!」 運転手はとっさの判断でアクセルを踏み、なんとか男の追跡を振り切る。ちょっとしたカーチェイスだ。
 タクシーを降り、高田馬場駅で電車を待っていると、男が「お宅の出版物は・・・」と因縁をつけてくる。なんとか男を説得して、誤解をとき、ぼくはまたタクシーに乗り込む。
 ところが走り出してしばらくして、ぼくは運転手に誤った行き先を告げたことに気づいた。「すみません。ぼく今、どこへ行ってくれと言いましたか?」「東京のツキへとおっしゃいましたよ」「えー、間違いました。早稲田へ行ってください!」
 タクシーはしかたなくUターンして、早稲田へ向かう。また大きな戦争があったのだろう。街並みは焼け焦げ、古びている。ちんちん電車が走り、なぜか時代が退化しているようだ。「どのあたりですか?」と運転手に問われ、「もう何年も来てないから、わからないな」とぼくは答えて、車を降りる。「あの線路の向こうがそうですよ。でも今はナショナルの人たちに封鎖されていて渡れません。でも、ちょうど今はお昼です。この時間に鎖が解かれますから、その間に線路を渡ってください」と運転手は教えてくれる。広場に白いシャツを着たナショナルの社員たちが現れ、境界線に張り渡した鎖をほどいた。ぼくはその間にこっそりと線路を向こう側へ渡った。

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