3月31日の夢(山田さん)

 ぼくの編集している「ピアノの本」という雑誌の発送用封筒の刷りこみについて、いろんな人から尋ねられたので、見本を探そうとする。会社のデスクや棚を探し回るが、どうしても見つからない。会社の中は足の踏み場もないほどに書類が床や壁一面にぎっしり詰まっている。
 隣のデスクのアシスタントの女性に尋ねようと思う。それに雑誌の発送も依頼したい。しかし、彼女は席を空けたまま、なかなか戻ってこない。やっと戻ってきたが、かんじんの彼女の名前を思い出せず、声がかけられない。皆が「山田さん」と呼んでいるが、本当にそんな名前だったろうか。ぼくには彼女が別の名前だった気がしてしかたがない。それに、皆は彼女が正社員であるかのように、大事な仕事を彼女に託しているようだ。
 隣のセクションから若い男性社員が飛び出してきて、いきなり「なんとかさーん、なんでそんな名前の喫茶店をやってるの?」と窓の外に声をかける。見ると、山田さん(でも男性社員は別の名前を呼んだ)が校庭のはるか遠くに椅子をいくつか置いて、子供たちのためにお茶を出す喫茶店をやっている。
 ぼくはデスクで分厚い文学書の第1巻を読んでしまったところだ。会社で公然とこんな本を読んでいてよいのだろうか? 早く次の巻を読みたくてちまらないのに、その第2巻はやはりいくら探しても見つからない。
 女性が窓の外を指さし、「誰かさんが帰ってしまうのはなぜ?」と、ぼくに尋ねる。その女性は半世紀以上前にぼくの同級生だった小滝さんだ。小学生のときは眼鏡をかけたいかにも秀才ふうの女の子だったが、成長した彼女は輝くような女性になっている。

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