海外生活

 妻と小さな息子と三人で海外に引っ越した。寝室のベッドで一人で寝ていると、書棚にぎっしり詰まった書籍の一部が崩れた。見る間にドミノ倒しのように本が崩れていき、ついにすべての本が崩れ落ちた。隣室からその音を聴きつけた妻のくすくす笑いが聞こえる。
 もう朝の光が窓から差している。しかし、日本とは時差があるので、自分がどれくらい寝たのかわからない。隣室との壁につけられた狭い窓越しに、妻に「ぼくたち、どのくらい眠ったの?」と尋ねる。妻は寝たまま「十分ぐらいでしょ」と答える。えっ、ぼくが眠ったと思ったのは、そんな短時間だったのか。それとも妻は十分間しか眠れなかったという意味だろうか。
 やはり海外で大きな建物に共同生活をしている。詩人のI氏がリーダーシップをとって、皆で大掃除中だ。しかし、ぼくはやる仕事がない。ぼくを尊敬しているらしい中年の婦人が、「何かやることがあればお手伝いします」と床に正座しているが、「ぼくが仕切っているわけではないから」と答えて、帰ってもらう。
 胸のポケットに薬袋があるのに気づく。そういえば日本を出てから、もうずっと飲んでいなかった。水を取りに外へ出て、戻るとき間違えて別の建物に入ってしまう。管理人のおばさんがぼくを見て「どろぼう!」と言い、玄関にいた掃除婦に「あの男を非難しろ」と叫ぶ。ぼくは「ノーノー」と自分が泥棒であることを否定しつつ、外に出る。
 隣の建物に入ると、そこには見知った別のグループが生活している。さらに次の建物に行くと、そこが元の自分の生活場所だった。やっと戻れたことに安堵し、寝転がったが、すぐに顔合わせの点呼になる。起き上がって、座ろうとするが、もう人でいっぱいで、ぼくが休息できるスペースはどこにもない。

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