3月20日の夢(豆笛)

 これから総会がある。ぼくは自分の担当する2つの部門の報告のため、2冊のファイルを作り終わった。さあ、これで準備万端。そこへK社長と秘書の男が帰ってきた。社長は今、癌を患っていて、既に死期が迫っている。彼は社長室にそのまま籠ってしまうが、秘書が出てきて、オフィスの真ん中に立って話し出す。オフィスの中心には土俵のように円形のフロアが一段低くなっている場所がある。左奥が玄関に通じる廊下で、右奥にも別の廊下がある。その廊下の向こうに会議スペースがあり、廊下の右側は社長室になっている。
 秘書の周りに、居合わせた社員が次々と集まってきて、円形に彼を取り巻いて、話を聞く。秘書は「男手はいるのか?」と尋ねる。社員たちは「いますよ」と答える。すると玄関から屈強な若い男たちが次々と入ってきて、社員たちの円陣を取り巻いて立つ。とても心強い感じだ。
 秘書は話し出す。「私と社長はこれまでシベリアを旅してきた。そこで社長は演劇をやり、それはロシアの人たちに感動を広く与えた」。ぼくは目頭が熱くなる。最初はウソ泣きのつもりだったが、だんだん感情が高まって、社員たちと共に大泣きを始める。
 それからぼくたちは会議スペースの方に移動する。社員たちも資料もとっちらかってしまい、せっかく用意した2冊のファイルもどこかへ行ってしまった。ぼくはそれならそれでいい、と覚悟を決める。と、1人のメガネをかけた痩せて若い男が人垣の外からぼくを手招く。ぼくが近寄ると、男は「これは女性から預かったおみやげだ。きみが待っていたものだよ」と、ぼくに何かを手渡す。見ると、それは一個の小さな豆である。そして豆には真ん中に小さな穴があけられていて、唇にあてて息を吹き込むとピーっと音が出る。皆が秘書の話に感動してピーピー口笛を鳴らしているので、ぼくも小さな音で豆笛を吹いてみる。
 やがて、ぼくは体が動かなくなり、床に腹ばいになって、僅かに動かせる手で近くにあるものを叩いて、リズムをとる。社員全員がさまざまな音を出し、それはまとまって一つの音楽へと高まっていく。

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