浜松のクライアントのオフィスでこれからプレゼンをする予定だ。相手は四人と聞いているので、四枚コピーをとり、打ち合わせテーブルに並べ、資料も四組山盛りに積み上げた。これで用意万端。余裕綽々で相手を待ち受けていた。
ところが現れた相手は、プレゼンは四人でなく、十二人で受けると言う。大慌てで企画書をさらにコピーしようと、テーブルの上の企画書を探すが、資料の山に隠れて見つからない。しかたなくクライアントに「企画書がそちらにありませんか」と尋ねるが、全員「ない」と答える。やむをえない。新たに一から作り直そうと、クライアントのデスクに行き、パソコンを借りるが、もちろん作り直しなんてできっこない。途方に暮れて戻ると、打ち合わせ会場はステージのあるホールに変わっている。クライアントは「もういいよ。こちらで作ったから、あなたはそれを読めばいい」と一冊の台本を渡してくれた。見回すと八割がた席は観客で埋まっており、企画会議だかイベントだかが今から始まるようだ。そして、ぼくはその催しの司会者であるらしい。ぼくはしかたなく最前列の席でマイクを握り、つっかえつつ台本を読みながら、最初の出演者の紹介をする。最初の出演者は旧知の評論家K氏である。無事、K氏の講演が終わり、ぼくは無意識にK氏の後について楽屋へ一緒に行く。「しまった。ぼくは司会者だったんだ。舞台に穴をあけてしまう」と気づいて、ステージ前に戻ったときには、二人目の出演者の出番が終わっていて、さっきのクライアントが舞台で司会のマイクを握っている。ぼくは詫びを言って、再びマイクを受け取るが、最前列の司会席はもう別の観客に座られていたので、お願いをして空けてもらう。その頃には明晰夢に移っていて、「これは悪夢だから、夢の言いなりになることはない。目を覚ませばいいのだ」と思うが、目覚めることができない。しかたなく三人目の紹介に移ろうとすると、クライアントが「待ってください。三人目の準備ができていないんです。できるまで映像作家のS氏に話してもらってください」と言う。いきなり振られて、S氏の準備はいいのだろうか。半信半疑のままS氏にスピーチをお願いすると、意外なことにS氏は平然とステージに上がってしゃべり始めた。だが、予定の時間の半分も過ぎないうちに、彼はさっさと舞台を降りてしまった。それでも、もうぼくには心の準備ができていた。自信をもってマイクを握り直すと、会場全体に向かって「ではここで会場の皆さんに自由に発言をしていただきます。朗読でもかまいません」と言い、確信に満ちた態度で客席を見渡す。
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