ぼくは広告プロダクションの社員だ。今日はなぜか社員全員が食事に招待されて音楽ホールに来ている。客席の一つ一つに社員たちが腰かけ、いつもはぼくらがぺこぺこしている取引先の社長さんたちが、にこにこしながら給仕をしてくれる。ぼくにも一人の頭の禿げかけた社長さんが「どうぞ」とウィスキーをお酌してくれる。しかし、慣れない所作をしたせいか、彼自身のスーツにお酒がこぼれてしまい、背後で待機していた秘書らしい男性が慌てて着替えに行かせる。テーブルにはおいしそうな御馳走が並んでおり、ぼくは早速それらに箸を伸ばそうとする。
その途端、ぼくらのチーム・リーダーである初老の男性が立ち上がり、「ちょっと待った! みんなに話があるので、階下へ集まってほしい」と言う。しぶしぶ階下に向かったぼくらにリーダーは驚くべきことを告げる。長年の信頼関係で結ばれていた取引先が契約を一方的に打ち切り、同業他社にすべて仕事を移行させたというのだ。とんでもない裏切りだ。この接待はその罪滅ぼしとして計画されたものに違いない。
ぼくは会社に戻る車の中から、窓越しに夕暮の空を眺める。見たこともない鳥たちが群れになって都会の空を飛び回っている。これはシャッターチャンスだ。ぼくは車外に出て、鳥たちにカメラを向けるが、なぜかこんな時に限ってシャッターが降りない。隣に乗り合わせた外国人カメラマンが「今日空いている?」と尋ねてくる。とてもフレンドリーな感じだ。ぼくは「明日なら空いているよ」と答える。