家にいると、低空飛行をする軽飛行機の異様な音が近づいてきた。驚いて妻とともに玄関から出る。すると夜空から飛行機が我が家の前の道路に不時着する態勢で舞い降りてくる。風防眼鏡をかけたパイロットがぼくらに手を振り、「危ないからどいて! どいて!」と叫ぶ。
停電なのか真っ暗な路上に飛行機は車輪のかわりに棒のようなものを二つ出して、見事に不時着して滑走していく。そのまままっすぐ行くと突き当りの壁に衝突しそうだと思うが、何も爆発音は聞こえない。暗闇の中を飛行機はうまく左折して別の通りに出たらしい。だがそこでバンッ!という爆音がする。やはり何かにぶつかったのだ。ぼくと妻とは野次馬根性にかられ、「それっ」と家を飛び出した。
飛行機が左折した角には二軒の老人ホームが地下に埋没するようにして建っている。フロアに出るには、地上から地下一階に飛び降りなければならない。先に行った妻は身軽に一軒目の老人ホームの床に着地したが、ぼくは手にしていたバッグとペットボトルをまず落とし、それから自分が両手でぶら下がって飛び降りる必要がある。落とした荷物がガンっと大きな音を立て、ペットボトルからはお茶がもれ始めた。それでもなんとか無事に床に着地できた。
飛び降りたところは地下街のようになっていて、角にフィリッピン・パブがある。そこから覗いているフィリッピーナの女性たちに「雑巾はありませんか」と声をかける。貸してもらった雑巾でこぼれたお茶を拭き、老人ホームに入る。そこは狭い個室で、大きな四角いテーブルの周りに、やはり四角い椅子が四脚置いてある。その一つに中年の女性ケアマネが座っていて、笑顔で挨拶してくる。それに応えながら狭い室内を椅子を退けながら懸命に移動するが、ここには父がいないことが分かったので、作業を中断し、玄関に戻る。そこから隣の老人ホームへ向かおうとするが、妻はすぐに飛び出したものの、ぼくは手にした靴を下駄箱に落としてしまい、それが見つからないので、足止めされてしまう。