妻の実家にいる。広々とした田園風景の中に母屋と離れが建っている。離れから飼い猫が二匹飛び出してきて、母屋に駆け込んでいく。後を追うが、猫は老いて腎臓が悪いらしく、血尿の痕が続いている。気持ち悪いがその上をスリッパで踏んで母屋に向かう。田園風景の中にすうっと何人かの人物が現れる。白髪のおばあさんやスキンヘッドの青年や若い女性たちだ。彼らもまじえて母屋に上がると、白衣の獣医さんが往診に来てくれている。「猫はもうすぐ死んでしまうんですよね」とぼくは言う。だが医者は「そんなことはない。猫はまだまだ死にません」と笑顔でぼくの心配を打ち消す。妻が二階へ上がっていく。「これからライブをします」という声が聞こえる。「みんな二階へ上がろう」とぼくは言う。
スキンヘッドの若者二人と女性一人と共に、ぼくは雨の舗道を歩いていく。前方に大きな川が見え、道路は鉄橋へと続いている。若者たちは鉄橋のたもとで川へと降りていくが、ぼくはひとりで鉄橋の半ばまで進む。雨が強くなり川も増水してきたので、若者たちがひとあし早く元来た道を戻っていくのが見える。ぼくも急いで踵を返し、彼らの後を追う。川が氾濫したのか、道端のすぐ足元まで泥水が迫ってきた。道路は実家の縁側へとそのまま続いている。縁側の雨戸の外の狭い隙間をぼくは進む。どんどん増水してくるが、あと少しでみんなのいる部屋にたどり着ける。ぼくは夢中で妻の名前を呼ぶ。縁側から外へ乗り出した妻は暗闇の中でぼくの姿が見えないらしい。それでもぼくの声を頼りに片手を伸ばしてくれる。ようやくぼくの手がその手を握りしめる。「助かった!」