4月9日の夢(床に画鋲)

 久しぶりに音楽教育研究家のI氏をインタビューしている。そこは広いオフィスの一番奥に置かれたベッドの上である。I氏はぼくに彼が原稿としてメモをした青色のノートと、それをもとに清書した赤色のノートの2冊をぼくに貸してくれる。だから、ぼくは自分でノートをとる必要がなく、彼の話をただ聞き流しているだけだ。
 インタビューはある演奏家の少年が講演中に話に詰まってしまい、話すのをやめて歌いだした、というところまで進んだ。ところが突然、I氏は「ちょっと広い部屋へ行ってくる」と言い、ぼくをベッドに残して、どこかへ行ってしまった。トイレなのか、あるいはタバコを吸いに行ったのだろうか。
 ぼくもベッドを降りて、がらんとしたオフィスを歩く。ぼくの会社は民事再生法を申請したので、殆ど倒産したも同然で、フロアは殆どデスクもない。歩けば歩くほど、その向こうに空間が広がる。こんな大きな会社だったのかと驚く。途中でI氏に出会い、「ここにもとは出版部があったんですよ。でも今後はひとに貸すことになります」と話しかける。
 さて、元の場所に二人で戻るが、ベッドがない。同僚に尋ねると、フロアの反対側の端に移したという。延々と歩いて、反対側の端に行くと、四畳半ぐらいの狭い部屋の中に窮屈にさっきのベッドが置かれていた。インタビューを再開しようとするが、青と赤のノートを前の場所に忘れてきたことに気づく。I氏に「探してきます」と断って、フロアを元に戻る。床には一面に画鋲がまかれている。ぼくはそれを踏まないよう、這って進む。元の場所にたどりつくと、怖そうな顔の男がいる。彼にノートの所在を尋ねるが「知らない」と言われる。ぼくはしかたなく画鋲の床を這って戻る。四畳半の部屋にノートはもしかしたらあるかもしれないと、一縷の望みを託して。

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