6月15日の夢(無能な物書き)

 ローカル紙のためのエッセー原稿を書き、妻にチェックしてもらった上で、編集部に送った。ところが担当の記者から山のような資料と共に、ダメだしの赤字入りの原稿が戻ってきてしまった。エッセーの中にたまたま実際にある川の名前を書き込んだのだが、その川はぼくの想像したような大きな川ではなく、小さな川なのだという。その川の写真入りの記事の切り抜きが証拠として入っている。小さな川ではあるが、水害があったらしく、黒い柵のようなものが沢山濁流に押し流されている写真だ。そのほか徹底的に書き直された文章が別紙で原稿の上に貼り付けられている。
 その原稿と資料の山をオフィスの自席の前の床に置き、ふと見ると、ぼくの席とその前後左右四つの席を同僚の女性たちが占領している。裁縫部の女性たちで、大急ぎで商品の洋服を繕わなければいけないらしい。しかし、それではぼくがパソコンを使えない。ぼくの席で裁縫に夢中の女性の肩を叩き、「すみません。ぼくの席をあけてくれませんか」とお願いする。それでやっと自分のデスクに座り、原稿を改めて点検する。なんだ、これは。まるで箇条書きのような文体で、ぼくはこんな下手なエッセーしか書けないのかと、がっくりする。
 音楽誌に自分の音楽知識の能力を超える講演をレポートするため、ノートに手書きで原稿を書く。講師にそのノートを見せると、やはりぼくの原稿が気に入らないらしい。ぼくをはじめ業界の人たちを沢山自分の山の別荘に呼び、パーティーを開くという。
 その別荘に行くには、大きな噴火口のような場所を通る。まるで巨大な牡蠣の貝殻のように岩石が同心円状に皺をつくっている。真ん中から少し斜めにずれたところに向かって底なしの穴になっていて、はるか下方の底には小さく青い湖の水面が見える。もしこの穴に落ちたら絶対いのちはない。ぼくは恐怖にかられ、思わず「怖い」と呟く。同行していた同僚が「あんな斜めの場所に底があるわけないじゃないか。そう見えるのは目の錯覚だよ」と笑い飛ばす。しかし、ぼくは恐怖が消えない。
 別荘に着き、パーティーが始まった。大皿に載せて次々と料理が運ばれてくるが、ぼくは野菜ばかりを食べている。そのうち我慢できずに、ただひとつ残っていた甘いものを食べる。おいしさに幸福感で満たされる。遠慮せずに肉料理もいただこうと思う。

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