女友達とジャケット

 女友達のAさんと連れだって、横浜の港の見えるビルにあるエステに行く。大きな窓越しに港を眺望しながら、一人浴槽につかっていると、変な宗教的秘儀のようなものに無理矢理参加させられる。どうも新興宗教っぽい。Aさんが現れて、ぼくの手を引いて、そこから連れ出してくれる。
 Aさんはぼくにジャケットを買ってくれた。その上着を手に持って、有名な短歌の師匠のところへ二人で行く。中年男の師匠が現れると、部屋にいた弟子たちは一斉に畳の部分からさがって、壁際の板敷きに降りる。短歌の世界では師と同じ畳を踏むことは許されないらしい。師匠はとても機嫌が悪そうだ。弟子の中にタバコを吸っている男がいる。師匠は他の弟子に命じて、その男を叩きのめす。ぼくらはそのリンチを黙って見ている。気がつくと、Aさんに買ってもらったジャケットがない。探すと、それは大きな灰皿の中にあった。さっきリンチにあった男が、何十本という吸い殻をぼくの上着の上に捨てていた。ぼくは灰まみれのジャケットを救い出す。
 またAさんとバスに乗る。終点まで来て、降りることになる。バスを降りるときは、挨拶がわりに詩を一編朗読しなければいけない規則だ。それをとにかくやってから取りに戻ろうと、ぼくは上着を車内に置いたまま、慌てて前部ドアからバスを降りようとする。だが、運転手はぼくにこのバスではそんなことをする必要がないという。全員が降りたのを確かめてから、ぼくは後部ドアから慌てて車内に戻り、ジャケットを取り戻す。ふと、乗降口を見ると、そこにはAさんがいて、泣き顔でぼくを見ている。ぼくは驚いて「どうしたの?」と言うが、彼女は涙をぽろぽろこぼしながら「なんでもないの」と答える。

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