8月29日の夢(荒廃した中央快速)

 ある詩人の作った映画の試写が阿佐ヶ谷であるので、会社の先輩の女性と一緒に、東京駅の一番線から昔懐かしい赤色の中央快速に乗る。彼女は40年以上前に「声に出して読む……」シリーズを企画した編集者だ。二人とも立っていたが、ふと見ると同僚のかたわらにはイケメンの男性二人が寄り添っている。しかも、いつのまに座席に座ってしまい、ぼく一人が吊革にぶら下がっている。
 気がつくと彼らの姿はない。電車の中は座席が外れて床に転がるなど、ひどく荒廃している。乗客のほとんどは汚い床に座り込んでいる。目つきの悪い若くて痩せた女が、体育座りをしたまま、ぼくを遠くから睨んでいるのが薄気味悪い。
 もう中央快速に長い間、乗っている。このあたりの駅から詩人の郷原さんが乗車するのではないだろうか。目の前に座っているのは、もしかしたら清水さんではないだろうか。いやいや、と、ぼくは思い直す。阿佐ヶ谷がこんなに遠いわけがない。電車が今渡った鉄橋は多摩川ではないだろうか。車内アナウンスが「いなりながやー」と駅名呼称する。聞いたことがない駅だ。引き返した方がいい。腕時計を見ると、まだ10時半だ。開映までにはまだ十分、時間がある。

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