新規事業の企画書を書いて、М専務のところへ持って行く。オフィスはガラス張りで、新緑の美しい風景が広々と見渡せる。専務は黙って企画書を受け取ると、デスクに置かれた箱の中へ入れる。中学の修学旅行に南アフリカへ一人20万の予算で行かせようという企画だ。
そのまま企画書のことは忘れていたが、ある日ランチの際にオフィスを通りかかると、前室のようなスペースにテーブルと椅子が置かれ、若い社員たちが食事をしながら新規事業の打ち合わせをしている。拡げられた資料に見覚えがある。「あっ、それってぼくと関係ある?」と尋ねると、彼らは慌てて「ないない」と首を横に振る。
考えてみると、新規事業の案を出せと言われ、たまたまある旅行業者の資料にあった南アフリカ一人20万修学旅行の企画書を出してしまったが、あまりに高額過ぎるのではないか。あの業者だって、もっと安いツアーを企画しているはずだ。いつもコンビを組んでいる営業のNくんにプランニングを手伝ってもらおうと、営業部に行く。部長席を見るがいない。そういえば彼は降格されて平社員に戻ったはずだ。壁の席次表を見るが、どこにも彼の名前はない。居合わせた社員に「Nくんはどこ?」と尋ねると、皆笑って「ゴミ箱の隣よ」と言う。