父の家にいる。立派なマンションだ。面倒見のいい父を頼って、初老の夫婦が訪ねてきている。応接間には父の家族全員が揃っており、ぼくも客に紹介される。「はじめまして、一色です」と自己紹介してから、ここにいる全員が一色なのだと気づき、「間違えました。一色真理です」と言い直すと、みんなに爆笑される。客は父に相談事があるらしいので、退出してリビングルームに行く。
そこでは1960年代ふうの据え置きステレオから大音量のクラシック音楽が鳴っている。相談事がこちらに聞こえてしまわないよう、母が客のプライバシーに配慮しているのだろう。奥の壁際には大きなソファーが置かれており、誰か見知らぬ男性が顔を隠すようにして寝転んでいる。ぼくが掛けているのは手前の小さなソファーの方だ。「そのソファーは居心地がいいんだよね、寝れるし」とぼくは男性に声をかける。こちらのソファーには三人が座っており、ぼくが左端。真ん中は誰か知らない人で、右端は詩人で評論家のG氏だ。ぼくが手にした紙袋をたえずごそごそさせているので、G氏はこちらに身を乗り出して「ちょっと一色さん、うるさいよ」と注意してくるが、ぼくはそれを無視する。
リビングに続く小さなスペースは父の書斎である。床全体を覆うように大きなベッドがあり、左側の壁にも作り付けの小さなベッドがある。ぼくはその部屋から父の蔵書を一冊手に取る。すると小さなベッドからむくむくと一人の男が起き上がり、ぼくの手にした本について悪口を言い始める。その本は詩人H氏の詩集だが、ぼくの読んだことのないものである。開くと見返しいっぱいに、H氏からぼくの父への書簡が手書きされている。ぼくは男にその文面を示しながら、この本が貴重なものであることを力説する。それにしても父とH氏が知り合いだったとは驚きだ。そういえば……と、ぼくは思い出す。ぼくはもう77歳だ。ぼくは父が35歳のときの子供だから、父は今は100歳をとうにこえているはずではないか。
驚きのあまり目が覚める。