ぼくはまだ親がかりで、二階建ての実家の部屋に住んでいる。左手には街路を見下ろす窓がある。かたわらには女性占術師が静かに立っている。と、入り口ドアのすりガラス窓に両親の姿が見えた。彼女を見られてはまずいと思い、ぼくは占術師に壁につくられたキャビネットの中に入るよう促す。しばらくして両親がいなくなったと思い、彼女をそこから出すが、そのとたん母親が突然部屋に入ってくる。まずい。だが、母親は占術師を見ても何も言わない。見えていないのだろうか。
それからぼくは父と大げんかになり、二人とも凶器を持って互いに激突する。視界が真っ暗になり、どうやら二人とも大けがを負ったようだ。
しばらくしてぼくは学生になり、街の郊外にある交差点の真ん中に立っている。かたわらにはやはり占術師が黙って立っている。生きた人間というより守護霊なのだろうか。向こうから父がにこにことぼくに近づいてくる。だが占術師には目もくれない。多分、見えていないのだろう。父親は言う。「何も心配することはない。まず北九州にある大学に行きなさい。そこの学長にうまくやってくれるよう頼んでおいた。少しだけそこで身を隠したあと、今度は南九州の企業に就職しなさい。そこにはエスという宗教を信じる社長さんがいる。ぼくは思うんだ。企業には独裁的な会社と民主的な会社があるが、時には独裁的な会社の方がいいこともあるんだ。経営が効率的にできるからね」。そう言うと、彼は交差点から立ち去る。ぼくはその後ろ姿に向かい、「エス? エスって何ですか?」と叫ぶが、父はもう後ろを振り向かない。