6月10日の夢(リヒテルの家)

 昔、ロシアの巨匠ピアニスト、リヒテルが日本に住んでいた大きな家(もちろん、そんな家は現実にはない。リヒテルは既に故人)が今はぼくの職場になっていて、その二階で仕事をしている。今日はその当のリヒテルがこの家に戻ってくる日だ。一階に降りていくと、玄関先に「Pの本」元編集長のK女史の姿がある。二人は個人的には険悪な仲だったが、そんなことはそしらぬ顔で、二人ガラス越しに手を振り合って挨拶する。気づくと、この家の周りはリヒテルを迎えようというマスコミやファンらが何重にも取り巻き、大変な騒ぎだ。
 ついにリヒテルが到着した。彼が車から降りて手を上げてみんなに挨拶すると、テレビ中継が一斉に始まり、ものすごい喧噪になる。
 ぼくは二階の小部屋で、同僚の女性とテーブルを囲んで座っている。そこへ女性のお手伝いさんがワゴンで料理を運んでくる。この特別席で、ぼくらは料理を食べながら歓迎行事を見物するのだ。その歓迎イベントの一環として、小学生くらいの少女たちがモダンダンスを始めた。
 そうやって悦に入っていると、沢山の招待客たちがこの部屋に招き入れられ、どっとテーブルを囲んでしまう。あっという間に、ぼくは彼らに押し出され、テーブルにはもう手が届かなくなる。所詮、ぼくは余計者だったのかと思う。
 リヒテルの歓迎行事が終わり、そこに一泊して帰ろうとすると、靴が見つからない。うろうろして、ぼくはしかたなく一階に降り、「あのー、ぼくの靴はどこでしょうか」と尋ねる。でも、みんなもうぼくの顔さえ覚えていない。「誰に入れてもらったの?」「鍵は持っているの?」などと聞かれる。ぼくが「最初からぼくはここにいたんです。二階で働いていたんです」と言うと、そこにいた女性や若い外国人の男性が「じゃあ、二階の客間からじゃないの?」と答える。
 彼らに教えてもらったルートで外へ出ると、ちゃんとぼくの靴もあり、やっと戸外へ出ることができた。地平線に雪を真っ白にかぶった連山が見え、とてもいい景色だ。このリヒテルの家には確か東京のある駅を降りて来たはずだったのに、まだ東京にこんな素晴らしいところがあったのだろうか。いつのまにかその家は以前よく一緒にステージに立っていたピアニストのSさんの家に変わっている。Sさんは「なかなか銀行がお金を貸してくれなかったけど、ゆっと手頃な物件が見つかって」と言っていたが、この家にはきっと大変なお金がかかったのだろう。ぼくも退職して引退したら、もっと自然の豊かなところに住みたいなと思う。

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