7月4日の夢(不機嫌な印刷屋)

 朝、会社に出勤する前に、ぼくが編集委員をしている「S誌」の編集部に立ち寄り、同誌の割付原稿を印刷所に入稿しようとしている。印刷屋の営業担当者は中年の男で、ぼくの写真のキャプションの入れ方が気にくわないらしい。ぼくは横組みで、キャプションの左右に余白を作るようにしているのだが、それは旧式なやり方で、今は縦組みで、しかも一切余白を作らないのが主流になっているという。「なぜかというとですね」と、彼は不機嫌な声で言い、デスクの上に自説を立証するための資料を無言で並べ始める。編集部の人たちはみんな、しーんとしてしまい、あたりに冷ややかな空気が流れる。壁の掛け時計の針がどんどん8時へと近づいていき、ぼくは焦り出す。書棚から適当に2,3冊本を抜き取って、横組みのキャプションの例をみんなに見せようとするが、なぜか手にした本のキャプションは全部縦組みだ。しかたなく、ぼくは自分の感情を精一杯抑えて、「あなたの思うようにやっていいよ。でも、できる限りぼくの希望も入れてくれないかな」と、声を絞り出すようにして言う。そして、相手の返事を待たずに、隣の部屋へのドアを開ける。
 隣の部屋は「S誌」編集委員会の部屋で、真ん中に大きなデスクがあり、それに向かって数人の編集委員がやはり黙々と仕事をしている。一番奥に座っているのは編集長のM氏だ。ぼくは自分の椅子にどっかりと腰を下ろす。この部屋はトイレでもあるので、この椅子に座ったまま、用を足してもよいのだ。ごそごそと用を足すぼくを編集委員のみんなは、見て見ぬふりをしてくれる。

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