3月23日の夢(屋上の幽霊少女)

 旅先で海辺の町家に滞在している。窓から瀬戸内海の灰色の海が見え、岬のそばには島がある。明日は久しぶりの取材だ。今どき大きなカセットレコーダーを回すのは格好悪い。だけどデジタルレコーダーは持ってこなかったから、ノートにメモをすれば大丈夫だろう。

 汚れた体を布で拭いている。ゴミ箱のような容器の中から新しい布切れをつまみだす。それは最初、ぼくのTシャツに見えた。しかも穴があいている。傍らにいる母に「穴があいたから捨ててもいい?」と尋ねると、「いいよ」と答える。しかし引っ張り出してみると、それは母親が昨日買ったばかりの服だった。上が花模様を散らした白で、下が赤いスカートのワンピースである。これは捨てるわけにはいかないと思う。

 その家には小学生の姉と弟がいる。姉は明日遠足なのに水筒がないというので、ぼくの水筒を貸してやる。すると明日取材でぼくの持っていく水筒がなくなる。どこか売っている商店がないだろうか。玄関から首だけ出して四方を見回す。しかしあちこちに雑貨屋があるものの、水筒は売っていそうにない。

 姉が「屋上に行けば、この家の秘密が分かるわ」と言うので、弟と共に二階へ上がる。姉は登るための足がかりに窓を開ける。そして、壁に取り付けられた手すりをつたってするすると屋上へ登っていく。弟も猿のように姉のあとを追う。そういえばぼくも一度屋上に上がったことがあった。けれど、今は掌にハンドクリームを塗ったばかりで、手すりがすべりそうだ。それにもう夕方である。逢魔が時になると、怖いことが起こりそうだ。ぼくは夕方の橙色の光に照らされた二階でひとり逡巡する。その光が不自然に強くなったと思うと、見知らぬ小学生くらいの女の子が忽然と、ぼくの前に立っている。ディズニーの3Dアニメに出てくるような顔だ。彼女はぼくを「どうして屋上に来てくれなかったの?」となじる。ぼくは「これから行こうとしていたところなんだ」と弁明する。だが怖いので、一階へ続く階段を降りようとする。しかし女の子の怒りに顔を歪めた顔がすぐ目の前に迫り、ぼくを突き落とそうとする。ぼくは「お化け!」と恐怖の叫び声をあげる。

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3月17日の夢(菱形のスペース)

 街の舗道に菱形に区切られた、50㎝四方程度の小さな一区画がある。そこに立ったら、沢山のやるべきことがあるので、立つにはなかなかの覚悟がいる。それらのやるべきことを一つ一つクリアした後、ほっとしたとたんトイレに行きたくなった。けれどもこんな小さなスペースで用を足すことはできそうにない。

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3月1日の夢(三人の訪問者)

 三人の訪問者があった。三人のうち、一人が踊り出す。ぼくの師匠である詩人のA氏でなければ踊れないと思っていた踊りだ。だが、この踊りならぼくにも踊れると思う。

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2月21日の夢(道に迷う)

 会社がすぐ傍にある別の建物に引っ越した。近くなので移転も簡単だ。仕事が終わってから、夜のうちにあっという間に荷物を運び終わることができた。

 翌朝、新しいオフィスに電車で出勤する。そろそろ降車駅だと思ってふと外を見ると、全く見慣れない風景だ。路線を乗り間違えたのだ。これでは引っ越し初日から遅刻してしまう。慌ててホームへ降り、出口に向かう。出口に向かうホームには小さな棒のようなものが立っており、その前に紳士が二人並んでいる。彼らは何をしているのだろう? 電車を待つルールが変わったのだろうかと思うが、遅刻が気になるので、傍を駆け抜ける。

 出口の外は鬱蒼とした森の中の住宅街である。バスやタクシーも走っているが、駅のような建物は見当たらない。一体どっちへ行けば正しい路線の電車に乗り換えられるのだろうかと途方に暮れる。

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2月19日の夢(ギターと空を覆うムクドリ)

 会社なのだが外観は学校の校舎のようだ。教室のように分かれた部屋で皆仕事に熱中しているが、ぼくだけは仕事もないので、愛用のギターを抱えて部屋から部屋へと歩き回っている。部屋の隅にそのギターを立てかけようとして、ふと見るとそばに水を湛えた器がある。濡らしては大変だ。慌てて他の場所に置こうとするが、そこにも水がある。しかたなくまたギターを抱えて校庭のような場所でベンチに座り、何度もギターのコードを鳴らす。しかしフレットの押さえ方が曖昧だし、冴えない音しか出すことができない。

 電車に乗って南洋のジャングルのような場所に行く。日没後の明かりが地平線に残る空に、空を真っ黒におおうほどのムクドリの大群が鳴きわめきながら飛び立った。ぼくは彼らをカメラに収めようと頑張る。

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2月9日の夢(お医者さんがいつぱい)

 医者へ行く。診察室でおばさんが二人診てもらっているところなので、順番を待つ間いったん外に出て、近くの喫茶店に入る。本に夢中になり時間を忘れてしまう。慌てて路地を一本回ったクリニックに駆け付ける。間口のとても狭い、小さな診療所だ。ドアを開けると、ちょうど男性医師が大きな口を開けて、ぼくの名前を呼んだところだった。診察室に入ると、そこは広大なスペースで、上下二段にたくさんの医師がずらりと並び、どんどん患者を診ているところだった。

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2月7日の夢(学校の先生になる)

 ぼくは学校に教師として勤めている。個室居酒屋のような狭い部屋で、男性がぼくに印刷した小さな紙片の束を渡す。そして物語を始める。それに合わせてぼくに、その紙片で紙吹雪を空中に散らす演技をしろと言うが、恥ずかしくてそんなことできない。

 外に出ると、五匹の真っ白い犬がいる。大きい犬、小さい犬、いろいろだ。女生徒がマイクで朗読しながら、犬たちを指揮する。終わって昼休みになると、犬たちはぼくが気に入ったらしく、走り寄ってきて愛想を振りまく。

 松山からぼくの旧友のHくんが同僚教師として赴任してきた。しかし彼は昔とは性格が変わっていて、とても意地悪だ。そのため校長をはじめ他の同僚たちから無視のいじめを受ける。だが自分の担任する生徒のことで「あの生徒には実はこんな事情があって……」と打ち明けてくれたことで、ぼくも校長も彼に対する考えが変わる。

 朝、まだ生徒たちが登校する前、校長からぼくにある指示が出た。それを聞くや、ぼくは大喜びで駆け出し、校門前の街角に立つと、恥ずかしさを振り払って叫ぶ。「9時から議場閉鎖!」 そう叫び続けながら、生徒たちに登校を急がせる。貼り紙をしようと白紙を探すが、どの紙も両面に印刷されていて、白紙は一枚も見つからない。

 全校会議が高速道路の脇で始まった。校長がとてもいいスピーチをするが、車の通過音がうるさくて生徒たちに聞こえていないのではないか。すると少し離れて草の上に腰を下ろしていた女生徒が立ち上がって、校長に的確な質問をする。よかった、みんなに聞こえていたのだと、ぼくはほっとする。

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2月5日の夢(前衛劇を観に行く)

 会社が早退できたので、午前中から前衛劇を観に行く。白亜の映画館が会場だ。二階のホールの床いっぱいに若者たちが寝転がったり、さまざまな作業をしている。これらの行為全体が演劇なのだ。足の踏み場もないホールの一角に小さなスペースを見つけて座り、ぼくも劇に参加する。

 お昼休みに外に出ると、街の広場を数十人の若者たちがデモのように行進していく。これも演劇の一部らしい。彼らは全員頭に緑色のヘルメットや頭巾をかぶっている。

 午後の部を観るために再び館内に入る。今度は午前中とは別のスロープを登って二階に行く。途中で階段がひどく急になり、ぼくの左足が上がらなくなる。知人の女性は階段一段ごとに寝袋のような袋にくるまって登っていき、「こっちの方がいい」と言う。だが、それでは途中で体勢がさかさまになってしまうので、「ぼくは遠慮します」と答える。

 やっと二階にたどりつく。フロアはますます足の踏み場がなく、しかも足元にちろちろと炎が燃えている。ようやく火のない場所を見つけて立つが、腰を下ろすこともできない。

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2月3日の夢(セールスマンに化ける)

 今日は行商のセールスマンになりすますことにする。勤務する会社のそばの小さな鉄工場に入っていく。中年の作業服の社長をはじめ職人たちが手を休めてぼくのリュックから取り出されるボールペンを見つめる。にこにこしながらそのペンを買ってくれる。適当な金額を言うと、ぼくの両手に小銭で支払ってくれた。ぼくは領収証を忘れてきたと言って、その会社の出納帳に「ボールペン代金 ○○円受領」と書き、サインをする。

 いい気分で外に出ると、そこは原宿のビル街だが、森の中のようにも見える。表参道を渡ろうとすると、横断歩道がいちもよりちょっと右にある。変だなと思ったら、その左にもう一つ横断歩道が現れた。どちらを渡ろうかと思案する。

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2月1日の夢(故人との合評会)

 詩の合評会の会場に行くと、旧S社のKa社長と「P誌」創刊時の編集長Ki女史がいる。社長はとうに亡くなったはずだし、編集長は高齢で何もかも忘れてしまったと聞いたのに、二人とも若くて元気そうだ。懐かしい詩人たちの顔も見える。

 会合が終わると社長は隣室に立ち去る。けれど持ち前の大声は健在で、開け放したドアの向こうからこちらに会話が丸聞こえだ。編集長は別の女性と立ち話の最中だが、それに割り込んで「P誌のことをみんな忘れてしまったなんて、うそでしょう?」と話しかける。しかし彼女はうっすらと笑うばかりで、答えようとしない。「では電話番号を教えるわ」と言うので、慌てて鞄の中からメモするものを取り出す。中に入っていたのは、この夢日記のノートだけだ。しかしどのページもぼくの夢の記録だらけで、彼女の言う電話番号を書き取ろうとするが、何度試みても手が途中で震えたり、スペースが足りなくなったりして、書くことができない。「あなたは私の電話番号を聞きたいんでしょ? ならばその数列を全部書けるスペースを出しなさい!」と威嚇するように、ぼくに言う。

 その瞬間、隣にいた頭の禿げた痩せた老人が立ち上がり、ぼくにキスをしようとする。ぼくは激高して「何をするんだ!」と怒鳴りつける。

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