2月11日の夢(青い封筒と霊柩車)

 73歳になってもまだ会社で働かせてもらっている。いつまでできるのだろうかと考えていると、青い封筒が届いた。G詩人会のH氏賞担当理事M氏からで、H氏賞を東京などの主要都市ではなく、地方都市で行ってはどうかといった企画案がぎっしりと書き込まれている。
 両側に京都の町家の民家が建ち並ぶ住宅地の暗い路地をさまよっている。しかし、目的地にたどりつくことができず引き返す途中、民家から怪しまれて誰何の声がかかる。
 ホームで待っているがなかなか電車が来ない。やっと特急のような電車が入線したので乗ろうとすると、ぼくの前でドアが閉まる。ほかの人は乗車していくので、そちらのドアに急ぐが、やはりぼくの前でドアが閉まる。一番先頭のドアまで走るが、列車はついにぼくを拒否して発車してしまう。クラブ活動のリーダーしか乗せない特急なのだという。
 先ほどの路地の少年たちが今まで使っていた施設から締め出されるのに抗議して署名活動にやってきた。ぼくは署名しないつもりでいたが、同僚に勧められて玄関に引き返した時には、少年たちがばたばたと足音を立てて走り去った後だった。
 車の助手席に乗っている。「バンパーン!」と大きな音がするので驚く。そうか。これは霊柩車で、今のは弔意を示すクラクションだったのだと気づく。

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2月10日の夢(新製品体験ルポ)

 会社で仕事していると、クライアントがやってきて、新製品の体験ルポを「ピアノの本」に書いてほしいと言う。それはアメリカの依頼で日本に設置されたスパイ装置なのだが、一般家庭用にも応用できて、親子で楽しめるらしい。ぼくが自分で取材しようと思うが、もう65歳(実際にはもっと年上)のぼくではリアルな体験記にならないかもしれない。ライターさんに依頼した方がよいだろうか、依頼するとしたら誰が適任だろうかと考える。ふとぼくのデスクを見ると、置いてあったオーディオ装置やパソコンが皆、床にぶちまけられている。これでは自分の席では仕事ができないなと思う。しかし、忙しいのでそんなことはどうでもいい。ぼくは取材に行くために、地下への大きなトンネルを降りていく。下り終わって、さらに上がったところにアーチ形の出口があり、その向こうに取材先があるのだ。

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2月9日の夢(消えた郵便物)

 朝届いた大量の郵便物を抱えて、通勤のため電車に乗る。ラッシュの車内から降車する人々をやり過ごすため、郵便物の山をいったん車内の床に置いて、自分もホームに降りる。再び乗車すると、郵便物の山が消えている。落とし物として駅員に処理されてしまったらしい。慌ててホームに降り、駅員を探すが、一人も見つからない。その間に電車も発車してしまった。次の電車に乗り、隣の大きな駅で降りるが、そこにも駅員は一人も見当たらない。

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1月30日の夢(新藤兼人監督の新作映画)

 過去の大作映画を新藤兼人監督が新たな演出と編集でリメイクし直した新作推理映画が完成間近である。ベースには過去の映像がそのまま使われているので、星由里子ら往年の名女優も若いままの姿で出演している一方、新しく撮り直された部分ではゆずのメンバーや、TやKなどぼくの知人も参加している。ぼく自身もオフィスの白板に「NHKに行く。22時まで」と嘘の予定を書いたまま、この映画に巻き込まれることになってしまった。出がけに棚の荷物を後輩が落としてしまい、それが発火しそうになるが、うまくぼくが受け止めて難を逃れる。
 さて今撮影されている港のシーンでは、海の中を沢山の消防車が隊列を組んで走り、その後ろを大量の血のようなものが追いかけていく。色彩が鮮やかで、美しく迫力のある画面だ。港の後方を振り返ると晴れ上がった夜空が見えるが、前方は昼間なのに青いスモークで深い霧がかかっている。その霧の奥から貨物列車が驀進してくる。貨車ごとに積まれているのは木製の大きな看板のようなもので、それを演出したのは黒澤明監督だという。次のシーンでは由緒ありげな古風な日本家屋が写される。その建物はがちゃんがちゃんと音を立てて、壁や窓が移動して別の建物に変わっていく。日本の伝統的な建築様式であるらしい。
 映画には沢山の名優が出演しているが、ぼくには誰が誰だかよくわからない。既に亡くなった俳優の出演場面では、壁に投影された影法師だけで表現されているシーンもあり、上手い演出だなと感心する。
不意に電話がかかってくる。受話器をとると女性が早口でまくしたてて、聞き取れない。もう一度かかり直した電話を星由里子に渡す。電話の相手は星に自分の名前は「赤」だと名乗る。この「赤」という言葉をキイとして、事件は一挙に解決に向かっていくのだ。
 撮影が終わり、ごみごみした料理屋で打ち上げが行われる。長老詩人のN氏が訪れるというので、狭い部屋から広い部屋へと移動して待ち構えるが、なかなか現れない。誰かが「この部屋は撮影中、Tが使っていた」と言う。ぼくは「出演者の中には自分のことを名優と自ら誇る人もいるが、彼女はけっしてそういう自慢をしない。むしろ自分には実力がないと思っている。だけど、彼女の歌は天才的に上手いんだ」と、みんなに力説する。

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1月19日の夢(レコーディング)

 古びた田舎家を改造したレコーディングスタジオで、ぼくは新曲の録音をしている。右手に木製の扉があり、その向こうは調整室だ。そこへコンコン咳き込みながら義母が現れ、スタジオの中をぐるぐると歩き回る。スタジオにはクリニックが併設されていて、義母は診察を受けに来たのかもしれない。
 母に外へ出てもらい、レコーディングの準備を進めるが、歌を全く練習してこなかったことに気づき、スタッフに楽譜を探させる。その間にぼくも外へ出ようとして、奥へずんずん進むと、そこには民家の部屋があり、眼鏡をかけた男とその息子がおびえた様子で、ぼくの様子をうかがっている。驚いて反対の方向へ進むと、縁側があり、その向こうに池が広がっている。池には狭い岸辺があり、そこを観客席にして朗読会ができると思う。でも少し狭すぎるなと、スタッフと話し合う。
 夕食時で、家では妻が食事の準備をして待っているだろうと思いながら、調整室のドアを開けるとそこは我が家だった。そして妻が「ああ、そこにいたの?!」とにこやかな顔を出す。隣にいる義母は車椅子に乗っていて、二人ともとてもファッショナブルなスタイルだ。二人の隣には見上げるように背の高い黒服の男が立っている。まるで黒い電柱のようだ。妻は男に向かい、しきりに「Hさん、Hさん!」と呼びかける。

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1月16日の夢(水びたしの世界)

 会社の二階で働いている。ぼくの机の上は原稿や校正などでいっぱいだ。一階に席がある中年女性のスタッフが、自分の制作物のためにぼくの作品を参考にさせてほしいと言って、二階に上がって来た。彼女が貸してほしいというのは、コミックとコピーの組み合わせられたものだが、それはまだ未定稿なので渡せないと、ぼくは断る。
 会社を退出して帰宅しようとする。いつも通る丘の上だが、あたり一面が冠水していて、見た渡す限り水びたしだ。気づくとぼくは泥の中に膝まで入り込んで、動くのもやっとの状態だが、幸いなことに膝まである長靴をはいているのがせめてもの救いだ。

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1月12日の夢(クリニック卒業)

 クリニックへ行くが患者が多く、待合室で長時間待たされる。忘れられてしまったのかと不安になる。受付の女性が待合室の患者たちに「帰りは入り口と違い、隣のビルへの坂になった通路を上がって、そこから階下へ降りてください」と、図を示しながら説明している。
 ようやく診察室に呼び入れられると、医師は「もうあなたは卒業」と宣告する。なんのことか分からないまま、言われたままに別のビルの出口から降りると、後からついてきた女性がぼくに花束を渡してくれる。つきそいの妻といっしょにタクシーに乗り込む。目的地に着くと、ぼくは運転手にさっきの医者の領収書など三種類の書類を見せる。それを見せると、運賃が割引になるらしい。運転手は「確かリアウィンドウに印鑑があるはずなんですが」とぼくに言う。手探りして、ぼくはそれらしい短筒状の物の入った袋を手渡すが、運転手は「それじゃない」と否定し、ぼくは慌ててそれを落としてしまう。そしてそれはそのまま見つけることができなくなる。運転手は「ああ、印鑑はありました」と言って書類に捺印し、「そういえばYさんは衆議院にいるんですよね」と話しかけてくる。Yさんは詩壇の要職を歴任している詩人だ。ぼくが「えっ、Yさんは衆議院議員になったの?」と驚くと、運転手は「いや、そういうわけじゃないんですが、都庁を辞めて……」と言葉を濁す。

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1月11日の夢(怒鳴り込み)

 S誌の座談会が行われる部屋の前に、準備のため椅子を並べていると、出席者の一人の女性詩人がやってきた。彼女にいったんは椅子を勧めるが、直接部屋に入ってもらってもいい時刻だと気づき、「お部屋の方へどうぞ」と言いながら、ドアを開ける。しかし部屋の中は異常に狭くて汚く、まるで荷物置き場のようだ。座ってもらう椅子も一脚しかない。「こんなところで座談会ができるわけないじゃないか」とぼくは激しい怒りを覚え、すぐに部屋の変更を求めて貸し会議室のフロントに怒鳴り込むことにする。
 フロントの前は大きな会議室になっていて、粛々と某詩人クラブのイベントが行われている最中だった。ぼくは司会席ごしに首を伸ばして、フロントの男に抗議を始める。それがちょうどマイクの前だったので、ぼくの怒声はマイクで会場中に響き渡ってしまう。フロントの男はぼくに「文句があるなら情報部に直接言え!」と冷ややかに答える。クラブの男たちも威嚇するように周りに集まってきた。ぼくは男の胸ぐらをつかんで、思わず相手をぶちのめそうとする。
 そこで唐突に夢は中断され、気づいたときはぼくはまた、何事もなかったように座談会の会場に向かっている。階段を登って詩人のH氏が現れるが、ぼくは無言で会釈をしただけで、彼をやり過ごす。もう会場は適切な部屋に変更されているだろうか? と期待してドアを開けるが、そこはあいかわらず狭くて汚い荷物置き場のままである。

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1月5日の夢(名刺と渡り鳥)

 会社で残業をしていると、声高に会議をしている部屋がある。一番玄関に近い会議室に暴力団ふうにも見える若い男たちがぎっしりと詰めかけているのだ。奥の自分のオフィスに戻ると、そこは半分壁がなく、外気にさらされているので、とても寒い。空を見上げると、渡り鳥の大群が飛んでいるのが見える。「気だ! 季節が変わるんだ!」という声が聞こえる。ぼくははっと我に返り、夢中で慌てて渡り鳥の写真を撮る。
 そこへ人相の悪い男が一人でやってきて、挨拶もなしにいきなり、ぼくの詩作についてインタビューを始める。明らかに会議室にいた男たちの一人だ。一通り答え終わった後、ぼくは男に「名刺、いいですか?」と、身分の証明を求める。男が「うん、別にいいよ」と答えるので、ぼくもスーツのポケットから名刺入れを出すが、中に入っているのは全部他人の名刺だ。隣の部屋に探しに行くが、そこにもぼくの名刺はない。
 オフィスに戻ると、男の姿は消えていて、「明日、静岡県まで取材に行け」と指示が出る。時計を見ると、もう夜の11時半だ。家に帰るのもやっとなのに、また明日は早起きか。やれやれと思う。

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1月2日の夢(渋谷のデストピア)

 メトロの渋谷駅から降りて、エレベーターに乗る。階数表示板には数字のほかに「T」という符号も打たれていて、ぼくはそのボタンを押してしまう。乗り合わせた男女が「えっ?」という表情でぼくを見る。
 「T」というフロアで降りる。デパートのはずなのに、そこには何もなく、廃墟のようだ。仕方なく階段を降りる。階段には浮浪者の男たちがぎっしりと寝ている。うっかり一人の男の上に傘を落としてしまい、男は「何をするんだ?!」とぼくにすごむ。こわごわ男たちの脇を通り抜けて、階下のデパートとして営業しているフロアに降りる。そこでもお客の姿は少なく、納入業者が店長らしき男に何事か激しく譴責されている。一階から隣のビルに行こうとする。そこもぼくの記憶では同じような商業ビルのはずだ。だが、ビルは見当たらず、右手の丘のように小高くなった緑豊かな道を沢山の男女が急ぎ足で歩いて行く。きっとその方向にJRの渋谷駅があるのだろう。その道を人々と反対方向に、巨大な銀色の馬のような動物が一人の農夫に引かれていく。戦後初期の農村のようなのどかな風景だ。慌てて写真を撮ろうとするが、撮りそこなう。ふと足元から声がするので見下ろすと、犬ほどの大きさの継ぎ接ぎされた鯉のぼりのような玩具が、ぐるぐると輪を描いて歩いている。それがしきりに女の子の声でぼくに話しかけるのだ。カメラで何枚も写真を撮っているうちに、体表の一部が剥がれて中に少女の顔が見える。そばにいた女性が「かわいそうに、こんなところに押し込められているのね」と声をかける。

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