自宅にいると地震が起きた。家がつぶれるほどではないが、かなり大きい。飛び出そうとして、客人のG氏がお風呂に入っているところだったのに気づく。「大丈夫か?」と声をかけると、浴室から「大丈夫」と返事があった。
家の前の川べりの空き地に、川底をくぐるトンネルを抜けて避難する。近くの何人かの住民たちも集まってきた。やがて川の下のトンネルをくぐって、向こう岸から何年も会っていない人たちが、こちら岸を訪れるようになった。
自宅にいると地震が起きた。家がつぶれるほどではないが、かなり大きい。飛び出そうとして、客人のG氏がお風呂に入っているところだったのに気づく。「大丈夫か?」と声をかけると、浴室から「大丈夫」と返事があった。
家の前の川べりの空き地に、川底をくぐるトンネルを抜けて避難する。近くの何人かの住民たちも集まってきた。やがて川の下のトンネルをくぐって、向こう岸から何年も会っていない人たちが、こちら岸を訪れるようになった。
ロシア行きの飛行機に潜り込んだが、搭乗券を持っているわけではないので、床に膝をついて隠れている。周りのシートに着席している乗客たちの視線が気になる。幸い見とがめられないうちに飛行機は離陸した。乗務員に見つからないよう、こっそり前方の空席に座る。しかしなんともいえず居心地の悪い椅子だ。
乗客たちの噂話に耳を傾けると、「ロシア産の米と称して売られているものは産地偽装で、本当は日本の国産米なのだ」という。ということは、こないだ義弟が送ってくれたロシア産米も偽装米だったのかと思う。
今日は取材を受ける日だ。雨の中を馴染みのある楽器店に行くが、四角い店内には楽器は全く飾られていない。
取材が始まった。インタビューしてくれるのは三十歳くらいの男性である。いつものなじみの担当者とは違う。きっと彼は退職したのだろう。途中で母親たちと子供たちによる合唱団が歌の練習を始める。「合唱のリズムとぼくの喋りのリズムが違うので喋りにくい。中断しよう」とぼくは言って、インタビューをいったん打ち切る。
再開したときには、担当者は別用があって外出したらしく、社長がぼくにインタビューしてくれることになった。もじゃもじゃ髪の社長はスーツにネクタイ姿で、男性のかっこうをしているが、実は女性であることをぼくは見抜く。しかしせっかく再開したのに、もう話すことはあまりない。
インタビューが終わり、帰ろうと傘を探すが、傘立てに見当たらない。見回すと四角形の店内のあちこちに傘立てがあり、濡れた傘でいっぱいだが、どこにもぼくの傘はない。レジの女性に「来客用の傘立てはどこですか」と尋ねる。「特にそういうものはございませんが、皆さんこう回って反対側の傘立てを利用されることが多いですよ」と彼女は答える。そこへ社長が降りてきて、「じゃあ、今日はぼくもこれで……」と退社する様子を見せ、レジの女性がにやりとする。これはぼくといっしょに店を出て、どこかへぼくを誘うつもりだなと不安になる。「ぼくはあいにくお酒が飲めないので」と断ろうと思うが、傘を探して店を一周してくると、社長はレジの女性と熱心に話し込んで忙しそうだ。これならそのすきに帰れそうだと、ぼくはようやく安心する。
家にいると、低空飛行をする軽飛行機の異様な音が近づいてきた。驚いて妻とともに玄関から出る。すると夜空から飛行機が我が家の前の道路に不時着する態勢で舞い降りてくる。風防眼鏡をかけたパイロットがぼくらに手を振り、「危ないからどいて! どいて!」と叫ぶ。
停電なのか真っ暗な路上に飛行機は車輪のかわりに棒のようなものを二つ出して、見事に不時着して滑走していく。そのまままっすぐ行くと突き当りの壁に衝突しそうだと思うが、何も爆発音は聞こえない。暗闇の中を飛行機はうまく左折して別の通りに出たらしい。だがそこでバンッ!という爆音がする。やはり何かにぶつかったのだ。ぼくと妻とは野次馬根性にかられ、「それっ」と家を飛び出した。
飛行機が左折した角には二軒の老人ホームが地下に埋没するようにして建っている。フロアに出るには、地上から地下一階に飛び降りなければならない。先に行った妻は身軽に一軒目の老人ホームの床に着地したが、ぼくは手にしていたバッグとペットボトルをまず落とし、それから自分が両手でぶら下がって飛び降りる必要がある。落とした荷物がガンっと大きな音を立て、ペットボトルからはお茶がもれ始めた。それでもなんとか無事に床に着地できた。
飛び降りたところは地下街のようになっていて、角にフィリッピン・パブがある。そこから覗いているフィリッピーナの女性たちに「雑巾はありませんか」と声をかける。貸してもらった雑巾でこぼれたお茶を拭き、老人ホームに入る。そこは狭い個室で、大きな四角いテーブルの周りに、やはり四角い椅子が四脚置いてある。その一つに中年の女性ケアマネが座っていて、笑顔で挨拶してくる。それに応えながら狭い室内を椅子を退けながら懸命に移動するが、ここには父がいないことが分かったので、作業を中断し、玄関に戻る。そこから隣の老人ホームへ向かおうとするが、妻はすぐに飛び出したものの、ぼくは手にした靴を下駄箱に落としてしまい、それが見つからないので、足止めされてしまう。
低迷の続く音楽ジャーナリズムにカツを入れようと、少壮男性実業家たちが語らって新しい音楽誌を創刊することになった。
その創刊記念イベントとして「赤い薔薇の音楽会」を催すことになり、ぼくのところにも招待状が届いた。とても嬉しい気持ちになり、コンサートの名前にちなんで、表紙に真っ赤な薔薇の写真をあしらった本を手に、いそいそと出かける。地下鉄を乗り換えようと地上に出ると、ひとりの女性が近づいてきてぼくの手にした本に目をとめ、「あなたも薔薇の音楽会に行くのですか」と声をかける。
ぼくは高校教師である。担任するクラスの問題を抱える女生徒に関する分厚い身上書類を持って、帰宅するため駅前までやってきた。そこで急に忘れ物に気づき、重い書類の束を舗道のベンチに置いたまま、学校に戻ろうとする。だが個人情報の書類をそんなところに置き去りにするわけにはいかない。引き返して書類を手に取り、タクシーで再び駅を目指す。駅はすぐそこだと思ったのに、意外に遠いのに驚く。
しばらく足の遠のいていた実家は立派なマンションである。廊下から実家に入る前にトイレに寄る。トイレは二重の扉になっている。一番目のドアを開けてふと見ると、奥の扉のさらに奥に二人の女性が手をとりあうようにして立っているのが見える。あれはぼくとは直接血縁のない父の娘と、そのまた娘だ。ぼくは硬い声でふたりに「こんにちは」と声をかける。さらに奥には娘の母親(つまり父の配偶者)らしい女がいて、ふたりとは別の自分の娘を世話しているのが見える。とてもこんな実家には足を踏み入れることができない。ぼくはあきらめてマンションの外に出る。
するとそこには小学校のおさななじみだった服部くんがいて、にこやかにほほえんでいる。ぼくらは「お互いにあの頃はひどい若者だったなあ」「きみなんてヒッピーだったし」と笑い合う。
父の家にいる。立派なマンションだ。面倒見のいい父を頼って、初老の夫婦が訪ねてきている。応接間には父の家族全員が揃っており、ぼくも客に紹介される。「はじめまして、一色です」と自己紹介してから、ここにいる全員が一色なのだと気づき、「間違えました。一色真理です」と言い直すと、みんなに爆笑される。客は父に相談事があるらしいので、退出してリビングルームに行く。
そこでは1960年代ふうの据え置きステレオから大音量のクラシック音楽が鳴っている。相談事がこちらに聞こえてしまわないよう、母が客のプライバシーに配慮しているのだろう。奥の壁際には大きなソファーが置かれており、誰か見知らぬ男性が顔を隠すようにして寝転んでいる。ぼくが掛けているのは手前の小さなソファーの方だ。「そのソファーは居心地がいいんだよね、寝れるし」とぼくは男性に声をかける。こちらのソファーには三人が座っており、ぼくが左端。真ん中は誰か知らない人で、右端は詩人で評論家のG氏だ。ぼくが手にした紙袋をたえずごそごそさせているので、G氏はこちらに身を乗り出して「ちょっと一色さん、うるさいよ」と注意してくるが、ぼくはそれを無視する。
リビングに続く小さなスペースは父の書斎である。床全体を覆うように大きなベッドがあり、左側の壁にも作り付けの小さなベッドがある。ぼくはその部屋から父の蔵書を一冊手に取る。すると小さなベッドからむくむくと一人の男が起き上がり、ぼくの手にした本について悪口を言い始める。その本は詩人H氏の詩集だが、ぼくの読んだことのないものである。開くと見返しいっぱいに、H氏からぼくの父への書簡が手書きされている。ぼくは男にその文面を示しながら、この本が貴重なものであることを力説する。それにしても父とH氏が知り合いだったとは驚きだ。そういえば……と、ぼくは思い出す。ぼくはもう77歳だ。ぼくは父が35歳のときの子供だから、父は今は100歳をとうにこえているはずではないか。
驚きのあまり目が覚める。
スーパーで買い物をしていると、妻にストーカー行為をしている男がいる。大声で人を呼びながら、相手の右手をむんずとつかむ。背が低く、頭が禿げていて、卑屈そうに笑っている初老の男だ。周囲の客たちに「110番してください」と叫ぶと、やがて三人の警察官がやってきた。男は手錠をかけられ、皆の前で巨大なゴミ箱のようなものの中にある、緑色の網の中にどさっと放り込まれる。しかし、それで役目はすんだとばかりに、警官たちは静かにその場を立ち去ってしまう。
国連の施設にいる。部屋の中には黒人の少女が数人たたずんでいるが、汚れた棚に丸めた衣服が詰め込まれており、片付けが必要だ。ハンガーが何本か見つかったので、それに服をどんどん吊るして片付ける。うっかり棚に手をつくと、そこには虫が湧いており、潰れた汁が手についてしまった。洗っても洗っても落ちない。
今日は国連の〇十周年かの記念行事があり、ゲートの前で入場待ちの行列に並ぶ。前にはどこかの学校の学生たちらしい一団がいる。ぼくらはこれから外国行きの飛行機に乗るのだ。なかなか列が進まないので、後ろを振り返っていて、ふと振り向くとぼくの前の行列はもうなくなっている。みんなゲートの中に入ったらしい。このままここで待てばいいのか、それとも前に進んでゲートの中に入るべきか戸惑う。
お店で店員に封筒に入ったカードの使い方を尋ねている。カードの名前はダボイズブラカードというのだ。