7月はあちこちの美術館を訪ね歩いた。
まず府中美術館の「アートとともに(寺田小太郎コレクション)」を見にいって、大好きな山口啓介さんの「千の高原」に再会した。 野見山暁治さんの心の奥をかきわけるような「糸島の木」も、小野木学さんの祈りのような青い抽象も、改めてすばらしかった。 それに、寂しい駅や公園にベックマンを思わせる孤独な人間たちがいる、相笠昌義さんという作家の絵を初めて知った。 見る側は贅沢なもので、勢いがあるタッチの次ぎには緻密な筆遣いに惹かれ、樹木1本でも宇宙を感じるかと思えば、空間ににじみ出る作家の世界観に釘付けになったりする。 あらゆるスタイルの絵に出会ったせいか、自分は他の誰にも似ていない。 自分の仕事をやり通すことが大事で、結果は自然に決まるものだ、という思いを強くして帰宅した。
その後、愛知県美術館に「愛知曼陀羅(東松照明写真展)」を見に出かけた。 画面構成が劇的だし、白黒のコントラストは美しいし、何よりその場の空気を生々しく感じさせるのだ。 人や物が、そこに在ると同時に、その時代や土地の影を背負っている。 写真とは「かつて在って、今ここに無いという不在の存在を見ること」とカタログにあった。 どんどん複雑になっている現代に絵画は何を「見れる」のか、、と、ちょっと打ちのめされた気持ちで岐阜県立美術館「ルドンとその時代」展に行った。 岐阜と名古屋は近いのだ。
ルドンはもちろんのこと、ムンク、キルヒナー、マルケ、ベルナール、、、、次々と好きな絵や版画が出て来て、「絵画はやはりすごいなあ、、、」とつくづく。 人間の想像力は目玉に蜘蛛の足をはやし、古代の神殿にバラ色の雲を飛ばす。 繊細な花々は透き通った精神から溢れてきたばかりだ。 3つの美術館協同の企画展だそうだが、充実した内容だった。
そして月末は久しぶりで神宮前の色彩美術館を訪ねた。 菅原猛先生は、初個展から知っている、厳しくも、理想に貫かれた方。 小野木学の停車場の風景を見せて下さった。 見たとたんの没我状態、、「タイトル」を聞くことも忘れた。 小野木学は、抽象もいいけど、具象もいい絵だ、、、
アトリエにもどると、豊かな色彩やピシッと決まった構成の記憶で、満ち足りた気持ちになっている。 絵は本来そういうものなのだ。 いつの間にか全てが巨大化し、個人にとって酷薄なものとなり、うちに破綻を含んだ方法でなければ、「表現」にならない、等と、、、、辛い時代だなあ、、と思う。
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