「アヴァンギャルド・チャイナ」とほとんど会期を同じくして、国立近代美術館で「エモーショナル・ドローイング」が企画された。 アジア、中東の作家達16名の、「この世界に生きることで生まれてくる『感情』をたどるドローイング」とのことで、そんなことが可能なのだろうか、と思いながら出かけた。
「ヒリヒリした才能」とでも呼びたいようなレイコ・イケムラのドローイング。 「描く」ことへの彼女の恐れと喜びを探る行為のような線だった。 ルドンを連想する不思議な世界は、彼女の心の痛みを感じさせて、自分はそれを本当の意味では分からないのではないか、分かると言うことは不遜ではないか、という気持ちになった。 描く人と見る人の体験が結びつき、社会や歴史の底に流れているものに繋がっていくとは、どういうことなのだろう、と考えこんでしまった。
辻直之のアニメーションはもっとあっけらかん。 果てしなく浮遊し、変遷してゆく形と線。 脈絡はない。 家⇒男⇒女⇒sex⇒染み⇒涙⇒子宮への回帰⇒汽車⇒ケーキ⇒ヘンゼルとグレーテル. . . . 一度、戦車が出てきたが、「ちょっと恐いもの」という扱いで、かわいい怪獣でもかまわなかったろう。 どこか未熟で、類型的。 ユーモラス。 見ていると、楽しい。 でも、その視線には言語体系に支えられた客観的思考が欠けている。
社会の中で人は被害者であると同時に、加害者でもあるはずで、その客観を通して、人は自己を位置づける。 社会に属している感覚を持てなくて、被害者の意識だけを持って傷ついていく、あるいは全ての事象をパターン化して流していく、それでいいのだろうか。社会に向けられるべき視線が皆、自分の内側に向っていて、それが普遍性を持つために必要な、自己に対する客観性がないのだ。 それでは、やがて、同じところを回りだすか、あるいは、精神的バランスをくずしてしまうのではないか。 たとえ、それが今の社会の現実だとしても、とても問題だと思う。
その原因が何なのか、アーティストを含めて、社会全体で考えていかなければ、「芸術」に向う人の心、そのものが壊れつつある、と思う。
「アヴァンギャルド・チャイナ」と「エモーショナル・ドローイング」、2008年秋、両極端の展覧会がぶつかったことで、何か、変化が起きることを願っている。
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