「職人さん達」

一般に「職人」と呼ばれる人達は、頑固ではあるが、実直であり、独特の潔さを持っていることが多い。 栃木の電工さんの間に残る、「風呂屋の財産」、「菜っ葉の肥やし」は、いつの間にか我が家に根付いた言葉だ。 それぞれ「湯(言う)だけ」、「肥え(声)だけ」の掛け合わせで、品はよくないが、効き目はある。 家族の中に「実」を伴わない言葉を恥と思う感覚ができる。
私の知っている大工さんは、70過ぎの方だが、ほとんどお喋りにならない。 朝、時間どおりにいらして、挨拶もそこそこに仕事を始められる。 ご自分の脚立、道具、外の履物、中の履物、全て持参で、こちらの物を出しておいても、お使いにならない。 お昼には、ポット型のお弁当を出して、暖かいお味噌汁からデザートまで、ゆっくり召し上がる。 休憩の時はカセットで民謡をかけ、寛いでおられる。 夕方にはノルマをちゃんと終え、自分の出したゴミを片付けてお帰りになる。 毎日、淡々とペースを守り、完全に自立していらっしゃる。
以前、資金不足という、やむを得ない事情から、職人さん達の間に入れてもらい、ペンキ塗りをさせてもらった。 水性ペンキならアクリルと似ている、と思ったが、なかなかどうして、、、まず缶が開かない。 マイナスドライバーでも釘抜きでもビクともしない。 仕方なく、例の大工さんに開けていただいた。 甚だ面目ない。 大工さんはバールという棒状の金梃子で、缶を回しながら開けて下さった。 「よく混ぜてネ。」とまで言われてしまった。
「養生」と呼ばれるマスキングをやって、液垂れしないよう、伸びやかさを失わないよう塗っていると、楽しかった。 時間に比例して仕事が進むのがいい。 僅か一週間の経験だったが、やってよかった。 そして「プロの仕事」を見せつけられた。 さすがだ、、、と思うが、彼らにとっては当然のことだ。 artist と artisan、重なるところもあり、違うところもある。 色々と考えさせられた。
職人さん達には何か言う必要はない。 丁寧に一番茶を入れれば分かって下さるし、こちらが仕事をしていれば、しやすいように配慮して下さる。 仕事がのろい分、夜遅くまでやっていると、黙って作業灯を点けて帰って下さる。 外の戸袋を塗っていると、何度も車を入れ直し、できるだけ広いスペースを空けて下さる。 やったことで認められるしかないので、こちらもがんばった。 しかし、所詮、俄仕立てのペンキ屋さんだ。 ある時、塗ったペンキの跡をじっと見られ、何とも居心地悪く、「どう、、で、、しょう、、か、、」と、つい言ってしまった。 やゝ間があって、返ってきた答えは、「暗くて分かんねえ、、、」

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