「石油」  犬塚 堯

二月は忙しかった。人間、忙しいと、考えることが近視眼的になっていけない。犬塚堯の詩を思い出す。いずれは石油になる身なのだから、とりあえず、大事なことだけでいいな、、、と思い直す。
 「石油」           犬塚 堯 (河畔の書・現代詩文庫82)
驚くのは
僕らの五体が石油になるということだ
何十万年もあとに
思念が油の中で揺れるというのだ
けものの四肢は
砂にとけて成金草の根となるそうだ
突然の終末がくるとすれば
その日の最期の宴会がそのまま
花の間を通る運河の中を流れてゆく
僕が新しい空で
小夜啼鳥の眼となるなら
唐黍の輝きから始まる風景に声を上げるだろう
驚くのは
炎の中に出入りする気楽な官能が
垂直に立昇る次代の神の
胸飾りとなっていることだ
急速に滅びた民族の栄光は
半島となって突き出し
実現しなかった時代は
終日風の中で荒れまくる
驚くのは
道徳を仕上げて消えた王朝が
地下になお一竿の旗をもつことだ
そのとき僕は
湧き立つ新平野の秩序に入ってゆけるか
はじめて見る事実と虚偽を
直ちに区別できるか
それから
ずっと未来の鳥の墜落
あちこちで起る山火事
旧世紀が終わるとすぐ生れ出る新型のレモン
これらの出来事に
あらためてわななく感情はどれか
莨色の地層をかけのぼる僕は
たとえ油となっても
今より思慮深い力をもっているか

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