「言葉」と「意味」の関係を最初に意識したのは、高校生で読んだ、レマルクの「凱旋門」だった。ジョアンが命の瀬戸際にイタリア語しか話せなくなり、ラビックが、自分がドイツ語を話していると気づく場面だ。この状況では、「言葉」が表面上の意味を失うことで、より一層伝わるものがあった。
それから何年も経って、映画「ラストタンゴ・イン・パリ」を観た。「言葉」と「意味」の関係は、「言葉から意味を奪うことでしか成立し得ない男と女」という、より先鋭化された状況で現れた。この映画はスキャンダラスな面ばかりが強調されるけれども、とてもすっきりして、切ない映画だと、私は思った。
そして 2008年、高田馬場にあるプロトシアターに、「Asia Meets Asia」(魯迅「狂人日記」)を観に行った。もうもうと砂塵の舞う舞台では、上海、香港、台北、東京から集まった俳優たちによる、四つの言葉が飛び交った。観客は、台詞の一部しか分からなかったが、虐げられた者たちの、声にならない声、意味にならない意味が、肉体から発せられる音として、強烈に伝わってきた。悲鳴、、笑い、、呻き、、囁き、、あらゆる音は、沈黙も含めて、とても抽象的に響いた。この冬、再演されるそうなので、楽しみだ。
「言葉」が言葉自体の「意味」から解放され、抽象性を増すことが、私には、「具象」が具象自体の「意味」から解放され、抽象性を増すことと、どこかで繋がっているように、思えてならない。そして、途轍もなくシビアな状況に裏打ちされている時だけ、「抽象化され、しかもリアルである」ということが可能な気がする。苛酷なものに日常的に晒されるようになって、私たちがリアルと感じられる状況が限られてきているからだろう。
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